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第17話 気がきく後輩
私の名前は、花寄さち子。
市役所勤務八年目の三十歳。
最近、気になる後輩がいる。
お昼休み。私は自席で出前したお弁当を食べていた。
麻婆豆腐、うまい。白米と合うー。
「……」
何か視線を感じて入口を見ると、福祉課二年目の鷲見君がジトっとこちらを見ていた。
「おや鷲見君、どうしたの?」
私がいつものように、おいでおいでして手招くと、鷲見君がもっさりと歩いてやって来る。
「花寄先輩、今日のお昼はまめやの日替わりですか」
「うんそう。麻婆豆腐だからね、即決だよ」
「今日は木曜日ですけど」
「ああっ!」
言われて私はギクリと震えた。しまった、忘れていた。
木曜日は市庁舎前にあさみベーカリーのトラック販売がやってくるのだ。
私はここのパンの大ファンで、木曜日は欠かしたことがなかった。
「しまったああ、完全に忘れてたよぉ! 目先の麻婆豆腐に負けてしまったよぉ!」
悔しがりながら私はまた麻婆豆腐を食べる。悔しいがこちらもマジうまい。
そんな私の敗北感を逆撫でするように、鷲見君は更に爆弾発言をぶっ込んだ。
「今日から、ホイップあんぱんver.ホワイト、始まってましたよ」
「な、なんですと!?」
説明しよう!
ホイップあんぱんver.ホワイトとは、もっちり白パンの中にこしあんとホイップが入る、秋冬限定の人気商品だ。
私はこの通称白あップを毎年楽しみにしている。太る? そんなのは知らん!
「今日からだったのかぁ!」
私の悔しがり方はやり過ぎなのかもしれない。
しかし、期間限定商品の白あップを今週逃したということは、今年食べられる回数が一回減ったという事。
そんな私に、もっさり長身イケメンの神が舞い降りた。
「買っておきました。先輩の分も」
「鷲見くーん!!」
私は鷲見君の白あップを持つ手ごと掴んで、歓喜に震えた。
「今年はいくらだった? 去年と同じ240円かな!?」
「え、あ……まあ……」
「ありがとう! はい!」
「あ、お……はい……」
急に辿々しくなった鷲見君の手に小銭を握らせて、私は今年最初の白あップを手に入れた!
またこれで75日、長生きできる!
「気がきくねえ、鷲見くんは。いい夫になるんじゃない?」
一部始終を見ていた涌井さんは、いつも通りニヤニヤしていた。
「確かに! 妻の好物をこんな風にさりげなく買っといてくれるなんて!」
「つっ……!」
私の言葉に、鷲見君は何故か真っ赤になっていた。
「つ、つひっ……!」
そしてそのまま鷲見君は息をとめていた。ああ、しゃっくりが出てしまったのね。
しかし、私が白あップファンだって、いつ言ったかな?
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