3rd.娘の場合

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3rd.娘の場合

『母からのお願いです、二葉(ふたば)。 “スーパーまるまる”で17時半からパンの詰め合わせ特盛袋がワゴンセールされます。買って来て下さいね。チョコレートデニッシュの購入はご自由にどうぞ』  本日の帰宅時間が息子より1時間遅い娘に、ピコーン♪とスマホの通知を鳴らしたのは17時20分だった。 「ナイスタイミングだよ、お母さん。ちょうどお腹が空いてたんだ♡ ラッキー!」  下がりかけた眼鏡をクイッと直し、娘はスキップしながら“スーパーまるまる”に足先を向ける。 ーーでも、予想外の出来事が勃発した。  パンの詰め合わせ特盛袋をカゴに入れている間に、目的のチョコレートデニッシュが買い占められてしまったのだ。三つもあったというのに! 「嘘でしょ!?」  キッと買い占めた相手を一瞥した。なんてことだ。よりにもよって、告白しようと思いを寄せていたサークルの先輩が、涼しい顔をしてレジにトングとトレイを置いている。 「ナイスタイミングだよぉ……お母さん。告白する前でラッキーだもん」  "スーパーまるまる"から外に出る先輩を目で追うと、二人の女子が親しげに近寄って行くのが見えた。  "任務成功"  チョコレートデニッシュはまた今度、と母にメールを送りながら「無駄な恋をした時間が勿体無いや……」二葉はポケットティッシュをシュパシュパ取り出して思いっきり目元に当てた。 * * *
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