4th.夫の場合

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4th.夫の場合

『お疲れ様です、美木(みき)君。 頼み事でごめんなさいね。“スーパー激安おいでやす”で19時から値切りシールのお惣菜が始まります。唐揚げと枝豆の半額を買ってきて下さいませんか? ビールの購入は何本でも構いません。冷蔵庫と晩酌のお相手は空いています』  本日はノー残業デー。夫の定時退社からの逆算で、最寄駅に着く頃を見計らってピコーン♪とスマホの通知を鳴らしたのは18時55分だった。 「お安い御用だよ、小鳥(ことり)ちゃん。奮発ありがとう」  愛しい妻を思い浮かべて微笑み、19時ジャストに“スーパー激安おいでやす”のお惣菜売り場に足を運んだ。    値切りシールを貼る店長がこちらを見てニコリとする。 「いらっしゃいませ。奥様にはいつもお世話になってます! 唐揚げも枝豆もご用意ありますよ」 「それは有難い。今夜の晩酌も楽しみです」  惣菜をいつくか見繕ってカゴに入れると、慣れた足取りで“スーパー激安おいでやす”の店内をぐるりと一周。 「これも買おう」  追加でもう一つ、自分が買いたい商品をカゴに入れる。  "任務成功"  妻にメールを送りながら「いつもありがとう」と囁く。買い物袋からチラリチラリと存在をアピールするスイーツに視線を落とし、その後に見上げた夜空は、ミッドナイトブルーじゃないブルー。  帰路を歩く足は軽やかだった。 * * *
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