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35 ちょっとだけ、のぞいてみようよ
「ねえ、ちょっとだけ、のぞいてみようよ」
「ダメよ。そんなことしたら、博士に怒られるよ」
「平気よ。シーもキョンもヒューマを見てきたと言ってたよ。あたしたちだけが知らないなんて、おかしいよ」
「わかった・・・。博士にないしょだよ」
「うん」
「そしたら、リモコンを持って・・・。おいで。ここに立つんだよ」
レイは転送スキップ(時空間転送)装置のリングを示した。ここに立たないと、時空間転送できない。
「立ったよ・・・」
「場所をはどこにする?」
「集会してるらしいから、地下倉庫がいいいよ」
「そしたら、ここの地下倉庫に設定して、位置は客席の隅だね。
ああ、絶対に大声を出したらダメだよ。
静かにしてれば、あっちからは、あたしたちは見えないからね」
「そしたら、レイがあたしの手を握っててね。
強く握ると皮が取れるから、優しくダヨ」
「ユウは臆病だからしかたないな。はい、手を握るよ。
行くよ・・・」
レイはユウの手を握って、リモコンのボタンを押した。
ふたりはコンサート会場のステージに近い客席の端にいた。この位置からステージは見づらく、近くには空席がいくつもあった。
「ウワッ!見ろよ!すごいな・・・」
レイがユウの耳元でささやいて、ステージを指さした。
ステージにいるのは、髪の長い小顔で目の大きな、色白の娘たちの集団だった。
「恐ろしい!恐怖だ!あんな大きな目を見たことがない!
肌が、なんで雪みたいに白いんだ?魔女か?
あの髪は何だ?赤いぞ!魔界だけのことはある。
シーとキョンが言ってた通りだ・・・。
みんな、恐ろしい顔だぞ・・・」
ユウが納得したようにつぶやいている。
「そしたら、もどろう・・・」
レイはユウに言いたいことがあったが、ユウの手をひいて、最初に現れた位置に戻って、リモコンのスイッチを押した。
ふたりは、もとの世界に戻った。
「レイが強く握ってたから、皮膚がレイの手に貼りついたままだ・・・」
ユウはレイの手から、自分の腕の皮膚を剥ぎ取り、腕に貼りつけた。
「みんな、小さな口をしてたな・・・。
目が大きくて、まつげが長くて、髪も長くて、色が白い・・・。
みんなが恐がるのもわかるさ!
みんな、アイツラを初めて見たんだからな!」
レイは転送スキップ装置を撫でた。
フランケンシュタイン博士が転送スキップ装置を完成させて以来、こっそりと、この世から別次元をのぞき見してくる者が後を絶たない。
『みんなは、別次元のヤツらを恐ろしいって言うが、あんなに美しいのは見たことがない。そのことをみんなは、わかっているはずだ・・・』
レイは、転送スキップ装置を囲む金属板に映った自分の顔を見つめた。
金属板に映った、朽ち果てたレイの顔から、腐乱した眼球がボロリとずり落ちた。鼻も崩れかかっている。転送スキップに耐えられなかったらしい。
『フランケンシュタイン博士に、この身体を、あの次元の女たちのように、作りかえてもらおう。
私だけでなく、ゾンビ族のキョンとシーだってそう思ってるはずだ』
ゴースト族のレイはそう思った。
(了)
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