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大切な御霊
小さなアパートの片隅で今、小さな命が消えようとしていた。
母親はしばらく帰ってきていない様子で、水を飲もうにも、台を重ねても水道には届かない程小さな子供。
ガリガリに痩せて、もう起き上がる力もなくて。
今、命の灯が消えようとしていた時。
小さな子供は前に優しいママが読んでくれた絵本に出てきた小さな天使を見付けた。
子供の手を取って、浮かぶように連れて行ってくれる?
「ねぇ、何処に行くの?」
「これからね、天使の梯子を上って神様の所へ。美味しい食べ物も水もあるよ。」
子供は天使に手を引かれながら天使の階段を上って、雲の上に消えていった。
病院のベッドの上で、もう病魔に連れ去られそうな人がいた。
自分で起き上がることもできないし、食べる物も上手く食べられない。
『人間、食べられなくなったら終わりだっていうもんなぁ。』
その人は目の前の食事をフォークですくおうとしたけれど、てからフォークが落ちてしまった。
その時、絵画でしか見た事の無いような見事なローブを着た天使が目の前にいた。
「もう、死ぬのかな。」
「天に昇って、次の命を生きるために生まれ変わりに行くのです。」
天使はそう言うと、その人の手を取って天使の梯子を上って行った。
その人は天使と一緒に雲の上に消えていった。
道路の端に車にひかれた動物がいた。
天使は沢山の動物たちを引き連れて、今、命が抜けようとしているその動物の所に来た。
「一緒に行きましょう。さぁ、天使の梯子が消えないうちに。」
雲の間から伸びる光を天使の梯子と呼ぶのだと、動物は初めて知った。
沢山の仲間たちと一緒に、天使が先頭と一番後ろについてくれて遅れてしまう小さい動物の御霊が零れ落ちないように見ていてくれた。
天使の梯子がかかっている時間、じっくり見て見たら、天使の羽が見えるかもしれないね。
【了】
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