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 紗夜が運転する軽自動車に乗って、目と鼻の先にあるファミリーレストランまで移動した。昼時もあって混み合っていたが、タイミングよく直ぐに席へと通された。  向かい合って座る紗夜の左手薬指には指輪がはめられていた。 「結婚、してるんだな」  紗夜は自分の左手をまじまじと見つめ「そう。仕事の時は外してるんだ。結婚して五年、子供は三歳になるよ」と、言う。  あの紗夜に子供が居るのか。ボンヤリとぼやける景色に抗って、タブレットを操り注文をする。紗夜の方にタブレットを渡すと紗夜はまだ決め兼ねているようで画面を何度も捲っていく。 「幸せなんだな」 「ん? そうだね。私、担々麺にしようっと」 「パスタ系じゃないのかよ」 「猫被る相手じゃないもん。臣ちゃんだし」  屈託のない笑顔が嬉しいような寂しいような。  注文を終えた紗夜は結婚指輪を弄りながら伏し目がちに言う。 「私、臣ちゃんが東京行った後、地元の劇団に入ったんだよ」  懐かしいだけではいられないのは再会したときからわかっていた。テーブルに置かれたグラスの水滴が耐えきれなくなって落ちていくように、再会してしまった以上、必ず話さなければならない話題だった。 「臣ちゃんに日本一の役者になってなんて言っちゃったでしょ? だから私もそこまでいかなくても小さな劇団で主役くらいはれるような役者にならなきゃと思ってて」  そこで紗夜は言葉を切り、俺を見た。 「ムリだった。挫折して挫折して、結局諦めて、看護学校行って、今に至るの」  紗夜はあの日青ざめた顔で俺に別れを切り出した。 「役者になるって大変なことなんだよ。中途半端な気持ちでなろうなんてムリだから!」 「わかってる。でも、やりたいんだから応援して欲しいって言ってんだよ」  涙目の紗夜が俺を睨む。 「じゃあやればいいよ! 日本一の役者になるまで私は会わないからね」  目の縁に溜まった涙を紗夜は流さなかった。  冷静になった今の俺だったら紗夜のあの時の気持ちは理解できる。俺は自分の見た目の良さに胡座をかいて、演技は手を抜いていた。それなのに成功するもんだと変な自信を持っていのだ。それを見透かしていた紗夜はきっと発破をかけたのだ。
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