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周防壱と名乗った女が、煙を吐き出しながら顔をしかめる。
「うるせぇな、朝っぱらからがなるんじゃねぇよ。また昨夜みてぇにブッ倒れるぞ。」
そう言われて、尊の脳裏に昨晩の悪夢がまざまざと蘇った。
「そ、そうだ、婚姻届は!?」
「安心しろ、夜間受付で正式に受理してもらったぜ。空欄は俺が代筆しておいた。これで俺達は晴れて夫婦ってわけだ。よっ、この果報者!」
「そ、そんな馬鹿な…マ、マジで結婚したのか、俺…こんな奴と…?」
「ま、法的にはそうだな。」
尊は衝撃の事実に再び卒倒しそうになって、何とか踏み止まった。
それから、壱の精悍な顔立ちと先程から惜しげもなくさらけだされている上半身を見て、ボソッと呟く。
「だ、大体、お前、本当に女なのかよ…。」
「何だよ、お前の目はポンコツか?この立派な胸が見えねぇのかよ。」
確かに、立派な胸ではある。
ただ、壱の『それ』は尊がグラビア雑誌で見るようなフワフワフカフカの『それ』とは異なり、何て言うかすごくー…筋肉質だった。
胸と呼ぶより胸筋と呼ぶべき『それ』を見ながら、尊が半信半疑の口調で問う。
「…お前、本当に男じゃねぇの?」
次の瞬間、尊のデリカシーの欠片も無い発言が悲鳴に変わった。
壱が尊の体を軽々と担ぎ上げ、狭い和室をグルリと見回す。
「風呂はどこにあるんだ。一緒に入ろうぜ。」
「はぁ!?」
「俺が本当に女かどうか知りたいんだろ?」
「や、やめろぉぉぉぉ!!」
風呂場に向かおうとする壱の歩みに、尊は手近にあった柱を掴んで必死に抵抗した。
「遠慮すんなって。ついでに、お前が『真っ当』な男かどうかも確かめてやるからよ。」
その言葉に込められた何だか卑猥な気配を察知して、柱を掴む手にますます力が入る。
これはあれだ。貞操の危機だ。
尊は柱にしがみつきながら、全力で叫んだ。
「大体何でお前はそんな普通にしていられるんだよ!!俺達、親に無理矢理結婚させられたんだぞ!!嫌じゃないのかよ!!」
「何が?俺の初婚の相手が、お前みたいなボンクラのドチビだからか?」
「う、うるさい!!俺の成長期はこれからなんだよ!!そうじゃなくて…!!」
「OK、OK。お前に伸びしろがあるかも、俺がちゃ~んと確かめてやるから、早く風呂に行こうぜ。」
「~~~~ッ!!」
そこでついに、尊の感情が爆発した。
本当はこんな奴に打ち明けるつもりはなかったが、仕方ない。
今年で21歳になる青年が、顔面を真っ赤にして小学生みたいな台詞を絶叫する。
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