第1話:花嫁、襲来!!

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「俺には好きな女の子がいるんだよ!!」 「…へぇ?」 「だから、こんな結婚…!!」 次の瞬間、急に壱の腕から力が抜けて、尊は顔面から床に転落した。 鼻を強打し涙目で面を上げると、すぐ目の前に真っ赤に燃える煙草の先端があった。 ギョッとして飛び退き、そのまま逃げようとして、壁に阻まれる。 恐る恐る振り返ると、端整な顔立ちに底意地の悪い笑みを浮かべながら、こちらににじり寄る壱と目が合った。 「お前、好きな女がいるのか。」 「ふ、普通いるだろ。俺は『真っ当』な男だからな。…お前にはいないのかよ。その、恋人とか、好きな奴とか。」 しかし、壱は尊の質問をスルーした。 妙に真剣な眼差しで「どんな女だ、そいつは。」 「華奢で清楚で大人しくて色白で黒髪が似合う、お前とは正反対の女の子だよ。」 「ほう、大和撫子ってやつか。…お前はさっきから一言余計だな。」 壱はそう言うと、尊の怯えるような顔面に煙草の煙を吹きかけた。 突然高濃度のニコチンに襲われて、尊が激しく咳き込む。 「テ、テメェ~…!!」 低い声で唸りながら、煙を振り払い、その先に霞んで見えるニヤけ面を睨みつけた。 「何がおかしいんだよ、お前!」 「あ?」 「昨日からずっと馬鹿みたいにヘラヘラと笑いやがって。危ない薬でもやってんのかよ!」 すると、壱は尊を更におちょくるように、表情筋をますます弛緩させてみせた。 「笑ってるとな、いいことがあるんだよ。お前も笑ってみ。」 …なるほど。どうやらこの女、とことん真面目に会話をする気がないらしい。 尊は半ばヤケクソ気味に「あはははは!!これで満足かよ!!」と大口を開けて笑ってみせると、返ってきたのは予想外に甘い声だった。 「…可愛い。」 「は?」 壱が煙草を口からはずし、片手で握り潰す。 それから、尊に顔を近付け、その右頬にキスをした。 固まる尊に、壱が唇を離してしたり顔で言う。 「ほら、いいことがあったろ?」 「き、きゃああああああああ!!!!」 気が付いた時には、尊は壱の巨を図体の火事場の馬鹿力で突き飛ばし、玄関から飛び出していた。 脱兎の如く走り去ったその背中を、壱がポカンとした顔つきで見送る。 「…な、何だ、あいつ?」 舌をねじこんだわけじゃあるまいし、ホッペにチューくらいで大袈裟な奴だ。 昨夜、尊の父親が無神経に放った一言が、俄に現実味を帯びる。 …まさかあいつ、マジで童貞なのか?
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