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本の本の本の本
最近、めっきり本が売れなくなりましたよね。
「もう、何を出せばいいのかわからないよな」
そもそも世の中にある本の数が多すぎるんですよね。
「既に読みきれないほど巷に溢れてるのに、毎年七万冊近い新刊が出てるんだろ?」
近年は、若干減少傾向にあるみたいですけど。
「それでも多すぎだろ。日本人の半分以上が月に一冊も本を読まないって話も聞くぜ」
そりゃあ、売れなくもなりますよね。
「ニッチ化もいくところまでいって、どんなジャンルでも必ずといっていいほど複数の本があるよな」
読者も何を選んだらいいかわかりませんよね。
「そうだ。いいアイデアを思いついたぞ」
何です?
「だったら、『本の本』を作ったらいいじゃないか」
どういう意味ですか?
「ジャンルごとに本をまとめた一冊ってこと。本の百科事典みたいな感じだな」
ああ、たまにありますねそういうの。
「本のテーマなんて山ほどあるんだから、まだまだ足りていないはずだ。適当にいくつかジャンルを選んで作ってみようぜ」
まあ、やってみますか。
◇
「売れたな」
売れましたねぇ。
「びっくりするほど売れたな」
ライバル各社も焦って次々と参入してきたくらいですからね。
「でもさ」
何です?
「本の本、増えすぎじゃね?」
ありとあらゆるテーマごとに、まとめ本が複数出てる有様ですからね。
「まとめ方も、各社いろいろと工夫してるよな」
それぞれの本の要点をまとめた本から、専門家に全冊読ませて評価付けをしてもらった本、読者アンケートをまとめたランキング本まで、本当に多種多様ですね。
「ウチは先行者利益で多少有利だけど、このままじゃジリ貧だろ」
読者も、どの『本の本』を選べばいいか混乱しているようですしね。
「そうだ。いい案を思いついたぞ」
先輩、アイデアマンっすね。
「今度は、『本の本の本』を出すのはどうだろうか」
なんだか舌を噛みそうな名前ですね。まあ、内容は想像がつきますが。
「まとめ本が増えすぎたのなら、『まとめ本のまとめ本』を作ればいい。簡単な話だ」
他社でも思いつきそうですね。
「先を越されないように、急いで作るぞ」
了解です。
◇
「これも売れたな」
売れちゃいましたねぇ。
「また、似たような本が増えたな」
予想してましたけどね。
「ジャンルごとにまとめる以外にも、『まとめ方の切り口』で異なるジャンルを集めるってやり方もあるからな」
ネタが尽きたところは、自分の会社で出したまとめ本のシリーズを合体させただけの『完全版』なんて作ってましたけどね。
「それが売れちゃってるんだよなぁ」
どうします? 今度は『本の本の本の本』でも作ってみます?
「いや、ここらで基本理念に立ち返ろうと思う」
基本理念?
◇◇◇
「見本本が完成したぞ」
これはまた、ずいぶんと分厚い本ですねぇ。
「究極の一冊を目指したからな」
究極の一冊?
「元々、まとめ本を手にする層ってのは、どういった人たちだと思う?」
自分の目的に合った本を見つけるため、ですか?
「それを突き詰めて考えると、どうなる?」
どうなるんです?
「手っ取り早く自分に必要な情報を得たい、だ」
なるほど。
「要するに、こういう読者は本が読みたいんじゃなくて、なるべく手間をかけずに重要な教えだけつまみ食いしたいんだよ」
それがすべてってわけじゃないでしょうけど、たしかにニーズは多そうですね。
「だから、『これ一冊読めば、世の中のあらゆる教えを網羅できる本』を目指したってわけだ」
そんな本、ホントに作れるんですか?
「もちろん無限にある情報をすべてまとめるのは不可能だし、本によってまったく逆のことを言ってるケースなんてのもある」
矛盾してるようだけど、よく見かけますよね。
「そこで、だ」
どうしたんです?
「なるべく普遍的な道徳とか洞察に教えを絞りつつ、読者の知識レベルによって多層的な解釈ができるようにまとめてみた」
ほう。
「これまで様々なまとめ本を作ってきた中で、どんなジャンルにも共通する物事の『本質』みたいなもんが、なんとなく見えてきた気がするからな」
そういった教えって、意外とシンプルだったりしますよね。
「ああ。内容も教科書みたいな文章じゃなくて、飽きのこないように物語や詩なんかを織り交ぜて表現している。抽象度も上がって一石二鳥だな」
それがこの本ってわけですか。ちょっと読んでみてもいいですか?
「おう。ぜひ感想を聞かせてくれ」
ふぅん、見た目の重厚さのわりには意外と読みやすいですね。
「そのあたりのバランス調整に、いちばん苦労したからな。腕のあるライターを何人も集めるの、本当に大変だったんだぞ」
ん? この感じ……。
「企画に賛同してくれた有識者を集めて何度も推敲会議を重ねたから、完成度には自信があるぜ」
なんとなくどこかで見覚えがあるような……。
「俺の仕事の集大成となる一冊だ。この本を作るために、俺はこの仕事と出会ったと言ってもいい。もはや運命だな」
もしかして、これ……。
「とは言っても、結局は本なんて読者次第なんだよなぁ。いくら多様な解釈ができるからって、極端に妙な受け取り方をするやつが現れないといいけど」
……ちなみに、本のタイトルって。
「いろんな教えを整理してまとめた一冊だからな」
――整書っていうんだ。
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