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転校生
俺は昨日できたばかりの顔の傷をガーゼ越しに撫でる。
周りには躓いて転んだなどとドジっ子アピールをしているが、その実これはバイト中にできた傷で躓いて転んでできたものではない。
昨日のことを思い出しただけで憂鬱になる。
俺のバイトは暗殺業。そして俺が所属する会社は金を貸す業務も行っている。
借りた金をちゃんと返せば問題ないが、そうじゃない顧客も少なくないわけで。
昨日は金に汚く約束を守らないターゲットのおっさんを殺しに行くのが俺の役目だった。
そいつは何度催促しても適当なことを言っては返済期間を引き延ばし続けた。しかも1年半。
その間にもうちで金を借り続け、借金を膨らませに膨らませ、ついにうちの社長を怒らせた。
いやぁ、1年半も待った社長の心の広さに甘えすぎだと思うね。
そんなわけで俺はそいつを殺しに行ったわけだけれど、自分の命が狙われる自覚があったらしいそのおっさんは護衛を付けていた。
その金はいったいどこから出たのか分からない。もしかしたら、成功してから報酬を払うタイプだったのかもしれない。
傍に付けていた護衛は女だった。それはそれは美人で、天使とも見まがうほどの女。
胸元まである染められた柔らかい金髪は、結ばれたあともなく見事なストレートで、色白の肌は血管が透けているのかほんのりピンク色をしていた。
透けそうな茶色の瞳はまっすぐに俺を捉えていた。
うっかり見惚れそうになったけれど、おそらくおっさんはその女の実力を知らなかったんじゃないかと思う。きっと女という面だけを見て、本当に自分を守れるのか、前払いなんてできるか、なんて言ったのだろう。
あいつのことだ。言いそうなことは簡単に想像がつく。
おっさんはあの女の初動の速さを前にしても、状況を理解できていない様子だった。
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