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舞い降りた天使の明日香ちゃん……
俺の目の前に天使ちゃんがいる。
見間違いじゃない。
なんてこの子は可愛いんだ!?
うおーー付き合いて―、そんでチューしてーー。
そう、俺は5秒前まで思っていた。
いや、待て待て待て、俺よ冷静になれと今ココ。
何故冷静になれかだって?
それは此処が男子校だからだ。
正直すげー可愛い。
二重まぶたにぱっちりお目目とか犯罪だろう。
何処に出しても恥ずかしくないならぬ、どんな安全な場所に行かれても心配になるほど乙女な雰囲気を醸し出している。
俺は踵を返すように校門の前へと戻る。
門を出て、再度俺がこれから通う学校の名前を確認するためだ。
皆星工業高校。
……間違いない、此処は男子校だ。
きっと四月が悪いんだ。
そう、そこに堂々と突っ立ているお前が悪いんだ、桜っ!?
って、校庭に植えてある木に文句を言っても仕方がないか。
はあ~~、やっぱりもうちょっと頑張って共学の皆恋高校へ行くべきだった。
皮肉なことに道路を面して反対側にそれはある。
和気藹々と男女が手を繋いで門をくぐって行くのが見える。
それはまるで蜃気楼を見てるみたいだ。
「おい、門の前で何を突っ立てるんだ?」
「ひゃいっ」
思わず俺からいつもよりも2オクターブ高い声が出た。
見るからに強面の男がいやゴリラが竹刀を首にかけて立って居たからだ。
「もうすぐ始業式が始まるぞ、遅刻したいのか? 見ない顔だなっ、お前は一年生だろ?」
「どちらの組の方ですか?」
なんでこんな朝っぱらからヤの付く人に遭遇しないといけないんだよ。
「あっ、俺か? 俺は3年C組を受け持つことになったゴンザレス今井で化学の教師だ」
はっ、こんなマッチョだからヤの人かと思ったら教師!?
しかも体育教師じゃなくって、普通ならひょろっとした先生のイメージの化学の先生だと。
髪型が二本の角みたいに立ってるし、10万馬力の科学の間違いじゃ?
目からは光線が出そうなサングラスからすると、アメコミのエスパーにも見えるな。
って、そんなことを構っている場合じゃないんだ。
それよりもなによりも、目の前のあの子だよっ。
一体彼女は誰なんだ?
あっ、そうか。男子校って言っても、何かしらの都合で特待クラスで特別入学をした女子って可能性も。しかし、あんな可愛い子がこんなむさ苦しい野獣の通う学校へ登校だなんて危なすぎる。
俺が、あの子を守らないと。
「おい、こら、先生が話を……」
俺は先生が声を掛けていることなど無視し、俺の天使を救いに門から駆けだした。
彼女歴ゼロの俺、正直女の子への扱いは皆無だが、そんなことは言ってられない。
俺は自分を鼓舞し、精いっぱいの勇気をもって彼女に声を掛けた。
「あの……」
「はい?」
くぅ~~~~なっなんつう可愛い声してるんだ。
アニメのヒロインかと思ったぞ。
「あのですね、そのですね」
「ん? 僕になにかようかい?」
うおっ、ちょっ、ちょっ、まっ、声が好みなだけでなくボクっ子キターーーーーー!?
よし、俺はここで高校デビューするんだ。
「俺、武藤 哲也っていいます」
「はぁ?」
「貴女のような可愛い女の子が、こんな危険なところを歩いてるなんて見過ごせないっす」
「はあ、それはどうも。因みに僕は嵐山 明日香です」
明日香ちゃんか。
声といいボクっ子といい、そして名前まで可愛いだなんて完璧ジャマイカ。
よしっ、後は彼女の手を取り、無事に体育館までエスコートするぞ。
「あの、よければ体育館まで一緒に行きませんか?」
「えっ、体育館? あっ、そうだな。って、なんで手を出してるのかな君? 握手?」
「いえ、貴女がよからぬ者に攫われないように、俺が無事に体育館へ送り届けてさせていただきます」
「う~~ん、どうしよっかな」
断られるだろうか……。
「うん、分かった。じゃあ、よろしくね哲っちゃん」
うぉおおおおおおおおおおお
下の名前で呼ばれたよ。
カナリアが鳴くような声で呼ばれたよ。
そして彼女と手を繋いだよ。
手が重なりあって互いが一つに繋がったよ。
もう彼女にするしかないでしょ。
いや、結婚するしかないでしょう。
学校なんて止めて、このままチャペルもありかもしれない。
「おっ、明日香。手なんて繋いで何処行くんだ?」
ん? なんだ、このイケメンは?
しかも彼女を呼ぶ捨てとは。
「おお、牧田か。いや、この一年君がね、僕を体育館までエスコートしてくれるんだって」
「ふ~~ん。俺は二年の牧田だ。って、お前ちゃんとコイツに自分の事説明したのか?」
説明?
「おい、一年」
「なっ、なんすか」
負けねー先輩だからなんだ、こんな糞クール野郎に明日香ちゃんは渡さねーー。
「言っとくけど、そいつ男だぞ。まあ、そういう趣味があんなら俺は止めねーけどな」
「えっ」
「えっ、てなに? 強引に僕の手を繋いでおいて、さっきの無しでしたはないよね?」
「えっ、いや、あの……」
「ないよね?」
くっ、なんて可愛いんだ。じゃなくって、なんて圧なんだ。
こんなの断れるわけないジャマイカ。
「あっ、はい」
「よしっ、じゃあサービスで腕を組んであげちゃう」
おっふ、フレグランスの香りが。
「くっ、くっ、くっ、くっ、お前等めっちゃお似合い」
「でしょでしょ。焼きもちやくなよ牧田」
「はっ、妬くかよっ。俺はノーマルだ」
「僕もノーマルだよ」
ほっ、そうなんだ。この人も普通に女の子が好きな人なんだ。
俺が馬鹿みたいに突っ走ったから、今はからかわれてるんだなきっと。
「あっ、でも。せっかく哲っちゃんからお誘い受けたから、今日デビューしちゃおっかな」
へっ、デビューなんの?
「おお、いいんじゃねーか。こいつも満更じゃなさそうだし」
「じゃあ、これからよろしくねっ、哲っちゃんチュッ」
「えっ、はっ、えっ」(今俺のほっぺにチューしたよね?)
それにしても柔らかい。
って、なっ、何を俺は考えてるんだ。
「せっ、先輩?」
「ははっ、冗談冗談。へへ」
男子校に舞い降りた天使の明日香ちゃんは男でした。
俺は、このまま高校デビューとなる……のか?
完
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