堕天使

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エリアスは声にならない悲鳴を上げながらスピードを落とすこともできず、宙を舞う赤と共に下界に墜ちた。 「大丈夫ですか?」 人間たちは突然降ってきた元天使に優しさを向けた。 もちろん関わるまいと去っていく人間もいたが、自分本位に動く姿さえエリアスには人間らしく思えてならなかった。 天界よりさらにクリアにみえる人間の感情。 「聞こえますか?」 「しっかり! 頑張って!」 エリアスは優しさをくれる人間たちの後ろで、何事だとカメラを起動してスマホを向ける人間の姿を見た。それをどうするのか、天界から人間を見守っていたエリアスはなんとなく想像がついた。 自分が人間と触れあえる場所まできたこと。 人間の感情をこんなに近くで見られること。 背中の痛みよりも、その嬉しさの方が勝っていた。 朦朧とする意識の中、口元に笑みを浮かべた。 もはや体に痛みはない。むしろ体の感覚がない。 消えそうになる意識の中で、人間とは本当に面白い生き物だ、と思った。 羽を堕としたことは後悔していない。 けれど、できることならもっともっと見ていたかった。 エリアスは血だまりの上でゆっくりと目を閉じた。 その顔は幸せに満ちていた。
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