記憶の海

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記憶の海

「よし。できた。いい感じだ」 秀王高校1年生の夏休みを終えた正人は夕食を作っていた。 夏休みが明けて、実力テストも終えた9月の週末の夜に忙しい合間を縫って趣味の料理に励む。 土日関係なく共働きで飲食店を営む両親と祖母は、 正人に料理を教える気はないらしい。店を継いでくれとは一言も言われていないが、料理は面白いので 勝手にやっている。 今日は 唐揚げを作った。美味しそうな匂いがキッチンに(ただよ)う 見た目は上出来だ。 試行錯誤を続けたが味はどうかな。 う〜ん。 父さんとおばあちゃんの作る味には遠く及ばない。 「何がダメなんだろう」 食器の後片付けをしてスマホでレシピを検索するが、これだ、と思うような隠し味のアイデアが浮かばない。 ふと家の本棚に並んだ料理本が目に入る。 ネットがない時代に父が買い(そろ)えた本だ。 パラパラとめくる。動画ではなく写真と数行の文字だけで説明する本は最低限の説明だけだ。 情報量が少ない。 これじゃ よくわかんないな。 昔は本だけでよくできたよな。 伝承っていうか、人から人へ受け継がれてきた味があるんだよな。 正人は関心しながら分厚い料理本を読み込む。 やがて本棚の目線の高さより下の棚に気づく。昔よく読んでいた絵本や図鑑を発見して、懐かしさが込み上げる。
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