水辺の彼岸花

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自転車での帰り道、正人は川沿いの土手で少し早咲きの彼岸花を見かけた。 9月中旬のお彼岸から群生で咲く。強く反り返った花に呼ばれたような気がして、自転車を降りた。 「彼岸花」と検索をかける。 別名は『曼珠沙華(まんじゅしゃげ)』 天界に咲く花。 しかし地上では死のイメージが強い。 彼岸の時期に咲くためだが、他とは違い不思議な花だ。花が枯れてから葉を伸ばし、翌年の初夏に枯れる。 おまけに花、茎、葉、球根全てに毒性がある上、特に強い毒は球根部分で目に見えない場所だ。 その毒ゆえに、田んぼをネズミやモグラから守るため畦道(あぜみち)に植えられたそうだ。 白い彼岸花の中に、赤い彼岸花が下から重なるようにポツポツ咲いている。 まるで、めぐる季節の本の表紙の色だ。 正人はスマホで写真に収めるが、残暑の暑さで 「高音注意」の警告が表示される。 慌ててスマホをオフにする。 乱暴すぎる熱量で、大事なものを壊されてはたまらない。 正人の心配をよそに、何事もなかったかのように 平然と咲く彼岸花は、心の中を見せない母さんに似ている。 赤い花がまるで鮮血のような目の覚める美しさを、 白い花は毒をもってしても、思い人を守り抜く 純粋な強さを垣間見せる。 母は見えない心の中で、猛毒を宿していたのか。 正人は、葉の生い茂る桜の木陰に入る。幼い頃、 海を目指した川沿いは、春には美しい桜並木に変わる。
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