祖母が残してくれた本

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 教室の中で、クラスメイトが笑い合い、日常が流れているように見える。  でも、私、秋吉真由子にとって、その空間はひどく冷く感じられた。  誰かの視線を感じるたびに、背筋に嫌な汗が流れ、言葉にしようとしても口の中が乾いていく。 「ねえ真由子ってば、うちらが誘ってんのに付き合い悪いよね。最近何度も断ってんじゃん」 「そんなになんの用事があんのか不思議だよね~? それとも、うちらとは遊べないって話?」  元々仲が良かったはずのクラスメイト、由美と愛佳が私の目の前に立ちはだかる。その問いには、明らかな棘が含まれていた。 「ごめん、どうしても祖母のお見舞いに行かないといけなくて……」  言い訳じみた声が自分でも嫌だった。 でも、祖母が病気で倒れて入院している。  うちは母子家庭だから、仕事で忙しい母の代わりに私が祖母に付き添ってあげたい。  だから、どうしても放課後は時間を作ることが出来無くて、カラオケに行くのは難しい。  その説明を何度繰り返しても、由美たちは理解しようとしてくれない。  そう、理由なんて、あっても無くてもどうでもいいのだ。  彼女たちは、ストレス発散のサンドバッグが欲しいだけなのだから。
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