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「ヒューイ。お前に家庭教師をつける」
二年ぶりにヒューイの元にやって来た父が、真剣な面持ちを崩さずに言う。
彼の声音は平坦で、特別な感情を宿していないことはすぐにわかった。
(でも、どうしていきなり……)
ヒューイは疑問を抱く。自分は両親にとって『出来損ない』で『恥さらし』のはず。
二人の弟もヒューイの元を訪れては数多の言葉で罵ってくる。ある意味感心するほどの語彙力だった。その才能をほかのところに活かせばいいのに――と思ってしまったのは仕方のないことだろう。
「返事は」
父が苛立ったように足で床を踏みつけて、言葉を促す。
ヒューイは慌てて「はい」と返事をした。
「お前はオメガだ。それに、身体が弱い。将来的に子供が望めないオメガなど、必要ない」
わかっていたことだ。
今更言われて腹を立てることも、悲しむこともないはずだ。
胸をチクチクと針で刺されるような痛みも気のせいだと、自分自身に言い聞かせる。
「そんなお前だが、まぁ、何処かに嫁がせねばならんからな。最低限の教育だ」
裏を返せば、父の言っていることは「弟たちの邪魔にはなるな」ということだ。
ヒューイのことを想っていっているわけではなく、弟のためを思って言っている。わかっていたことじゃないか。
「家庭教師は一週間後から来るそうだ。勉学に励む準備をしておくことだな」
「は、はい」
「勉学の道具一式はチェスターに渡しておく。勝手に受け取れ」
チェスターとは、ヒューイの世話役を勤めている従者のことである。彼は口数こそ多くないが、ヒューイのことをとてもよく世話してくれる。ヒューイにとって一番の理解者といえる存在。
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