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「折角家庭教師をつけてやるのだから、せいぜい勉学に励むことだな。とはいっても、弟たちに勝てるとは思えんが」
置き土産とばかりに最後に気に障る言葉を残し、父はヒューイの私室を出て行った。
バタンと扉が閉まったのを見て、ヒューイはようやく呼吸が出来たような感覚だった。
(家庭教師……僕に?)
今までだって、何度も学びたいと思ったことはある。どうせ受け入れてもらえないとあきらめていた。なのに、まさか父のほうから家庭教師をつけてくれるなんて――。
(どんな人だろう。怖い人じゃなかったらいいんだけど――)
心臓がどくんどくんと大きく音を鳴らしている。
今まで家族や使用人以外だと、老医者くらいしか会ったことのないヒューイだ。身内以外の人間とはどういうものなのか、興味は尽きない。
「ヒューイさま。あまりはしゃがないでくださいませ」
「わかってるよ、チェスター」
側に控えるチェスターがヒューイの態度をたしなめる。だからといって、心が弾むのは止めることが出来ない。
「どんな人だろう。優しい人がいいな」
まだ見ぬ家庭教師に思いをはせる。チェスターが「ヒューイさま」ともう一度たしなめるように声をかけてくる。
「本当にわかってるよ。大丈夫、体調を崩したりしないよ」
「……どうでしょうね」
呆れたような態度のチェスターを見て、むっとしてしまう。
(今に見てろよ。僕だって、健康に生きることが出来るんだから――!)
などと思ったまではよかった。ヒューイはこの後三日間、寝込む羽目になったのだから。はしゃぎすぎた罰が当たったのだとヒューイは理解した。
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