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香椎の父親は、ムラノ自動車の常務取締役という役員の肩書を持つ。半導体メーカー『甚目電子工業』との太いパイプを維持するため、その役員の娘と結婚することを強いられているのだ。
「ねえ、俺が結婚すると寂しい?」
「なんで?」
「こうして外で話す機会も減るじゃん。」
「え。それで私に何の損があるっていうの?」
「損しかないじゃん。寂しいとか寂しいとか。」
そう言って明太筑前煮の鶏肉だけを食べる香椎。むかついて、私が最後の鶏肉を奪い取る。
「香椎っていつの間にタバコやめたの?」
「営業はなあ、タバコ一つで成績に響くもんなんだよ。」
「へえ。」
「その鶏肉、里夏の指であはーんって食べさせてよ。」
私があぼーんと言いながら、卓上調味料のカプサイシンを瓶ごと香椎の口に放り込もうとする。するとみちるに営業妨害だと怒鳴られた。
今どき珍しく、反禁煙運動に加担するこの居酒屋は席でもタバコが吸える。のだが、香椎は意外にも禁煙者としての道を切り開いた。親の肩書に泥をぬれない香椎が真面目ぶっててうける。
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