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まさこ
あの子の前では正直でいなければいけない。真っ直ぐ美しい子に育ってほしいと願って真美と名付けたのだけれど、娘は正直な子供過ぎて周りから嫌われている。
『真美じゃなくて正しい子と書いて正子がよかったんじゃないか?』
夫も名前を変えようかと本気で考えるきっかけになった出来事がある。真美が、小学校二年生なってすぐのこと。
*
『真美がなにかしましたか?』
担任教師に呼び出された私は先生と対面して話している。先生は周囲を確認し、真美がその場にいないことを再度確認したあと。
『クラスの男子が小さなウソをついたんです。そしたら、真美さんが突然怒り出して、わたしに言ったんですよ。集めた針持ってきていいかと』
集めた針に担任の女性教師は顔をひきつらせていた。真美のことなら母である私がよく知っている。
『真美が針を集めだしたのは二年前です。うそつきな子が大嫌いで指切りの歌を本気にするような子なんです。私たちも困っていて』
真美が、六歳の頃からコツコツと貯めたお年玉で小さな針を一本。また一本と集めだした。
『お母さんからも口酸っぱく言ってもらえませんかね』
『申し訳ありませんでした。言い聞かせますので』
私の声が思いのほか大きかったのか、真美が廊下から駆けつけてきて、担任の先生を睨み付けて。
『おかあさんがいけないことしたんですか?せんせい、どうなんですか?』
真美が早口に言いまくるときは危険信号のサイン。
『真美さんのお母さんが悪いことしたわけじゃないよ』
『じゃあ、せんせいがウソつきなんだね』
キラリと黒目が輝いた真美がぽてっとした唇をあげて気味悪く笑う。
『せんせい、あたしのはりあげるよ。だってウソつきなんだもん』
こうして真美は担任からも嫌われているのだ。
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