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針を集めても集めても
あたしが針を集めると言い出したとき、両親は冷ややかな視線で笑っていたのを今でも覚えている。
「嘘ついたら針千本の~ます」
六歳の頃からコツコツと集めた小さな針は瓶にこれでもかと詰められている。それだけ嘘つきがいるということにあたしはため息を吐く。
「真美、入っていいかな?」
お母さんがお父さんがあたしを気味悪がって見ているのは薄々気づいている。小学校二年生を機に担任の先生は一年もせず変わってしまうのはあたしのせいだと言うクラスメートの声が大きくなっていた。
「いいよ」
十年経っても、あたしは針を集め続ける日々。八歳の頃のあだ名は、まさこ。
今は、針の子と書いてはりこと囁かれている。
「真っ直ぐに生きていてほしいのは変わらないの。真美の考え方を少し変えたら、友達だってできるんじゃないかな?」
学校に針を持ち込もうとする奇妙な子に近づくクラスメートなんていない。嘘をつかれても平気な顔をすればいいなんて両親は言うけれど、それがあたしには出来ない。
「友達できたら嘘がなくなるの?違うよね!!」
『真美ちゃんに近づいたら、針が届くんだって。嘘つきの手紙を添えてさ。気持ち悪いよね~』
何回いや何百回その言葉を聞いたのだろう?
小さなウソをついた疾風くんの家を知りたくても小学二年の担任の先生は教えてくれなかった。
それならと、ウソをついているクラスメートの投稿を片っ端から閲覧して、地図アプリを立ち上げ、針とは違う赤いピンを指していく。
「早瀬さんの家に針を投函したんでしょ?やめなさい!!恥ずかしいでしょう」
早瀬くららのアカウントをみれば行きつけの場所だって家の位置だって把握済み。世間はそれをストーカーというよう。
「お母さん、恥ずかしいなんておかしいよ?あたしはこれでも抑えてるんだよ」
お父さんの小言を言うくせにお父さんの前では、平然としていること。お母さんもお父さんも小さな嘘をまた重ね続けている。
「あーあ!!針を集めても集めても足りないや」
針を千本数えるのはやめた。瓶が増えていくたび詰められた針を見つめることが日課になった。
「お願い!!正気になって」
お母さんが必死に叫んでいる。
あたしは、そんなにおかしな子なのかな?
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