夢は金細工師

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夢は金細工師

 私の夢は、金細工師。  彫ったり張り合わせたり描いたり嵌め込んだり。金は数多の顔を持っていて、人の手で自在に変わっていく。  自分の思うまま金が形を変えて、まるでもう一人の自分が、煌めく金色の髪と透き通るような金色の瞳を持つ、それこそ金細工みたいな私が、そこにできあがるような気がして、世界が広がるように感じるのが好きだった。  金細工師のお父さんから教わりながら修行の毎日。いつか私もお父さんみたいな立派な金細工師になる。そう思っていた。  その日はいつも通り起きて、お母さんと一緒に朝食の準備をしていたら、お父さんから仕事の手伝いを頼まれた。 「クリサ、午前中にフロキおじさんからガラス瓶を貰ってきてくれ」 「じゃあ、すぐに行ってくるよ。お父さんとお母さんはキリアと一緒にご飯食べてて」  干し肉をスライスし終わって、スープは火をかけるだけになったので、厨房でやることはほとんどなくなってしまったのだ。働き者のクリサは次にすべきことを前倒しにやってしまうのが性分であった。竈の中を一瞬見てから母親に目配せすると、歩きながら髪を一纏めに結び直す。肌寒い朝の街を歩くには心許ない薄着の上に一枚羽織って玄関前、 「行ってきます」  の一言。彼女は荷車を引いて出ていってしまった。
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