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「それで、そちらの御仁は?」
「彼はアッシュ。逃亡奴――」
「旅人! 旅人のアッシュだ! たまたま通りかかったらダイアウルフから逃げる人影を見てな…………はは……」
ハラルドの前で慌てながら愛想笑いをするアッシュ。治安維持を職務の一つとする騎士に逃亡奴隷などという身分を明かすわけにはいかず、キリアから馬を返してもらって早々に立ち去ろうとするも、ハラルドはそれを許さなかった。
「待て。貴殿は勇者とともに戦い、悪魔憑きを三体も倒したのだ。これは王城にて叙勲せねばならん功績だ。今一度、王都に戻ってはいただけないだろうか」
「い、いや…………急いでるんだ。今なら日が落ちる前に隣の街に着ける。邪魔しないでくれ」
「ま、待て!」
「北の勇者クリサ! また会おう!」
そう言ってアッシュは馬の向きを強引に変えて走らせ、平原を吹く風のように去って行った。
あっ、逃げた。
叙勲くらい受ければいいのに。
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