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ミサロ殿下と妹のルルア、これから幸せになってね。
一つの恋が終わったというのに、2ヶ月後――私は専属のメイドを1人連れて、馬車に揺られていた。
(……こうなるなんて)
両親から承諾を得て、公爵家の領地へ戻るための荷造りをしていた私を、カザお父様が書斎へと呼んだ。
(2日前に多額の慰謝料が銀行へ入金されたから、お金の話かしら? まさか、半分よこせとか?)
両親は、ルルアと第一王子ミサロ殿下との婚約に喜んでいる。彼らは私よりもお似合いだといい、ルルアの嫁入り道具をせっせと準備していた。
(まあ仕方がないわ。両親は私よりも、ルルアの方が大事だから)
だからと言って私がいただいた「慰謝料は渡さない」と決めて、お父様がいる書斎の扉をノックした。
「ローリスか、入りなさい」
「はい失礼します。カザお父様、私に何かご用ですか?」
「ああ。ローリス、おまえに結婚の話がきた」
「え、私に結婚の話がきた?」
明日の早朝、領地へ行く準備をしていたのに結婚?
お父様に「結婚は嫌です」とお断りしようとしたが、カザお父様に「ローリスも読みなさい」と届いた手紙を渡された。
「まあ、この封蝋……」
届いた手紙は国王陛下からのようで、私に「辺境伯と結婚して欲しい」と書いてあった。
(陛下からなんて、この結婚の話は断れないじゃない)
こうして私は辺境伯の元へ、お嫁に行くことになったのだ。
私の結婚の相手は、ひと月前にご両親を不慮の事故で亡くされ、辺境伯となられたカサエル・バルキッサ――彼は同じ学園の卒業生で、妹ルルアを愛する1人。
小説は読んでいる途中だったから、物語の終わり方はわからない。
ただわかるのは、ルルアに嫉妬してイジワルをした、姉のローリスが公爵家を追い出されたことだけ。
多分。
その後ルルアは、ミサロ殿下かカエサル様と結婚して幸せになりました。で、終わりだと思う。
実際、ルルアはミサロ殿下よりカエサル様と仲が良かった。舞踏会ではエスコートとファーストダンスを踊り。学園では、ミサロ殿下よりも一緒にいるところを何度も見た。
――だから、妹はミサロ殿下を選ばす、カエサル様を選ぶと思っていたのだけど……彼女の心は違ったみたい。
ルルアは、第一王子ミサロ殿下と結ばれたもの。
辺境伯となったカエサル様は、婚約破棄された私とは違うが、彼もまた恋に敗れた1人。その彼が陛下を使い「ローリスと結婚したい」と手紙を寄越したのは、辺境地付近にあらわれる、強い魔物が関わっているのだろう。
(私の魔道具つくり、魔法研究は陛下、殿下、カエサル様も知っている。この結婚は辺境伯を守るためで、好きな人がいるカエサル様とは白い結婚なんだわ。……彼は両親を亡くし、若くして辺境伯となった。辺境の地にあらわれる魔物を倒すために、私の魔法と魔道具を使いたいのね)
――魔物討伐なら任せて!
「カザお父様。私、カエサル様と結婚します」
結果的にいって、この結婚は私としてもよかったかも。
第一王子のミサロ殿下に、婚約を破棄された私は傷物と呼ばれ、普通の結婚はできない。だから婚約破棄の後、私と婚約、結婚したいとたくさんの手紙、贈り物が公爵家に届いている。
(その多くは、私の魔導具と魔法研究を横取りしたいのだろう)
ガサお父様とミルお母様は手紙を返し、贈り物を送り返すのが面倒だと言いだした。
私がカエサル様と結婚を決めなかったら、勝手に条件のいい人と婚約を結ばれていたかも。
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