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3
辺境地へ向かう日となった。公爵家へ戻ってから、1人で食べていた朝食。今日で最後だから、食堂へ挨拶に行ったけど、両親は口々に冷たい言葉を投げてきた。
「ローリス、公爵家におまえの居場所はない。2度とここへは戻ってくるな」
「そうよ。輿入れのお金も渡したのだから、帰ってこなくていいわ」
お父様とお母様は婚約破棄されたが、殿下を想う私が、ミサロ殿下と結ばれた妹ルルアに嫉妬をして、何かすると思ったのだろう。
嫉妬も何も、ミサロ殿下への恋心はもうないし、そんなことする気もない。冷たい両親と、面倒な公爵家から出られたのはよかった。
(ミサロ殿下からの慰謝料と、両親から手切れ金にとして、辺境地の近くにある鉱山をもらえたから、私だって公爵家なんて用済み)
「ローリスが、あんな使えもしない鉱山が欲しいと言い出すとはな。こちらとしても、処分する手間が省けた」
あの鉱山を処分するにも、金がかかったと言ったカザお父様。お父様は私がなぜ、あの鉱山を私が「欲しい」と言ったのかわかっていない。
お父様は「辺境地近くの鉱山は、光るガラクタ石ばかりで価値がない」と頭を抱えていた。私にしたら、掘れば掘るほど宝が出る鉱山。
――普段、お父様がガラクタだと言っていた光る石は、魔石の原石。小説の設定だったかしら? ここは聖女崇拝している国。聖女、聖職者が使用する力は神が与えたし力。
魔法、魔力なんてないと考える世界。
だからか、力がある辺境伯に魔物討伐ばかりさせている。ドラタラス国ではまだ、魔石の価値をわかっておらず。隣国とは違い、冒険者ギルドは機能しておらず、冒険者はほとんどいない。
(魔物から出る魔石を、使い道がないからと、捨ててしまうのですもの)
私は鉱山からでた魔石を使って、魔道具作りをしている。作った魔導具はこの国では売れないので、隣国に卸している。
中でも、魔力石に魔力を込めれば……フフフ。
(必要な荷物も馬車に積んだし、サッサと公爵家を出て行きましょう)
馬車に揺られて数時間後。
さてさて困りましたわと、私達は困っていた。
辺境地へ向かう途中に、大森林のスカーロン森がある。この森は辺境伯の所有物で、魔物が出る。約束では、スカーロン森まで辺境伯カエサル様と、辺境騎士が迎えにくる話になっていた。
だが、しかし。
「まぁ早朝から、辺境伯カエサル様と騎士が魔物討伐に出ていて、ここへは来られない?」
伝達係によこされた、カエサル様の側近にそう伝えられた。
その魔物討伐の魔物が強いらしく、討伐は2日3日かかるため。私達に、近くの街にある宿屋で「旦那様が来るまで待っていて欲しい」と。
「森の近くの街といえばスズル街ね。その宿屋に2日3日ですか。別に泊まらなくてもいいわ。スカーロン森に出る魔物なら、私とキャロルがいれば、討伐しながら進めます」
「はい。剣の達人の私と、ローリスお嬢様がいれば簡単に森を抜けられます」
そう言い、私の専属メイドとして付いてきたキャロルが、寄越されて側近に胸を張った。
でも、これは本当の話。
魔法と魔導具を扱う私と、剣を使うキャロルさえ居ればなんとかなる。
――なぜかと言うと。いま目の前にある大森林のスカーロン森は、辺境地近くの鉱山に行くため、子供の頃から何度も通った森だ。
大丈夫だと言っても、側近は首を横に振る。
「森をこの人数で抜けようなど、おやめください。ローリス様に万が一のことがあれば、僕が旦那様に殺されます」
カエサル様に殺されると、どうしても街の宿屋に連れて行きたい側近に「私が怪我をしなければいいのね」と微笑む。
行く気満々の私に、彼はますます顔を青くした。
(平気だと、証拠を見せればいいかしら?)
顔を青くした彼に、馬車から両手で持てるくらいの木箱を持ってきて、蓋を開けた。
「光る石? これは、なんですか?」
「これはね、全て私が魔力を込めて作った爆弾なの。名付けて魔石爆弾(グレネード)!」
「ま、魔石爆弾?」
驚く側近と、瞳を光らすキャロル。
「ローリスお嬢様、私が前々から言っていますが、その名前はダサいです。魔弾、魔石弾、魔法弾の方が、かっこいい」
「魔弾? 魔石弾? 魔法弾? ぜったいに私が考えた魔石爆弾(グレネード)の方が、いい名前でしょう!」
いいえ。と首を振る、キャロルと見合った。
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