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6
私達は魔物が住むスワーロン森で「食べられません!」と泣き叫ぶタロさんの近くで、火を焚き焼肉をはじめた。
「ローリスお嬢様。このオオトカゲの肉、美味しいです!」
すでに、この森で何度も焼肉をしているからか。ご満悦のキャロルに、炊き立てのご飯をプレゼントした。彼女はまた瞳を輝かせて、山盛りの飯を頬張る。
「やっぱり、焼肉には白飯です!」
「フフ、そうね」
時々キャロルは私と同じ、現代人じゃないかと錯覚するほどの、順応性の高さ。ご飯をお皿に山盛りに盛って、可愛い。
「タロさん、この肉に毒はないわ。そんなにお腹の音を鳴らすくらいなら、タロさんも食べればいいのに」
近くで焼肉の匂いに負けた、タロさんのお腹の音がぐ〜ぐ〜鳴り響く。だけど頑なに彼は食べない。キャロルの為に10合炊いたので、ご飯なら食べるかと思い塩おにぎりを握った。
「炊き立ては美味しいわよ、食べる?」
「うおっ、ローリス様の手作り? すごく美味しそうですが、それを食べてしまったら僕の明日はありません」
涙目、口元を涎で照らしながら、おかしな事を言う。でも、ご飯は嫌いじゃないみたい。「よかったら、食べて」と、彼の側にお皿に乗せた塩おにぎりを置いた。
数秒見つめたタロさんは。
「すみません、カエサル様!」
と、おにぎりにかぶりついた。「お、美味しい」と涙し。たかが外れたのか、私達の焼肉を食べてまた泣いた。
「う、うぇっ、美味い。噛めば噛むほど、肉の旨味が口一派に広がる」
「でしょう!」
やっぱ、動いた後のお肉は最高!
ここに、ビールがあればもっといい!
焼肉も終盤、10合炊いたご飯はキャロルが7、私が1、タロさん2の割合で全て食べてしまった。キャロルは細い体で、魔物のお肉も全て平らげた。
「では、私は片付けをしますね」
「えぇ、お願いするわ」
彼女はリュックから、辺りが濡れないよう水色の水吸いシートを取り出し、その上に使った鉄板などの洗い物を置いた。次に洗い物をする木の桶と洗い物用の石鹸、水の魔石を取り出し、陽気な歌を歌い洗い物をはじめた。
(もう慣れたものね)
はじめは水か吹き出る水の魔石に驚いて、魔石を投げていたけど。と、私はその姿を見ながら、スワーロンの森すべてをサーチした。
(……やはり、私達の近くに魔物が数匹いるわね。周囲に結界魔法を張ってあるから安心。ん? 馬に乗った誰か森に入ってきた? ……え、ええ? ものすごいスピードで、こっちらに向かって来ていない?)
夜もふけ、魔物が出るスワーロンの森。
その森を迷いもせず、こっちに向かって来ている。
――私達が位置からして、ここまで来るのに約20分はかかるかしら?
森のサーチをする私に、タロさんがオズオズ話しかけてきた。
「お聞きしたいのですが。先ほどからローリス様が使用する力は……魔力、魔法でしょうか?」
「ええ、そうよ」
もう見せてしまったし、これから一緒に生活するのだから、隠す必要もないので素直に答えた。彼の瞳が大きくなる。それは無理もない、魔力を持つものがいない、調べもしないこの国だもの。
この国一、力の強い辺境の地は隣国との戦いで、いくとなく敵の魔力を見てきたのかな? その魔力に打ち勝つ力を持つ辺境伯。
(私の様なものは、嫌われるかしら?)
その考えは私の間違いだった。
「素晴らしい! 旦那様はなんて良い嫁をもらったのでしょう。カエサル様のお母様も魔法が使える1人でした」
タロさんはウルウル瞳で、驚きの事実を話しはじめた。
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