140人が本棚に入れています
本棚に追加
9
(なんなのこの人は?)
少しの魔力を感じ目が覚めたと同時に、カエサル様がテントに入ってきた。そして数分もの間、私の寝顔を見つめている。
これは目を開けていいものか、悩む。
「……可愛い」
耳を疑う言葉。
――あなたは妹が好きではなかったの?
パチッと目を開けた。瞳に映る灯りの魔法と、銀色に光る髪、青い瞳、私を見つめていたカエサル様と瞳がかち合った。
だが彼は驚かず、私を見て微笑んだ。
「ごめん、起こしてしまったようだね」
「いいえ、どのようにして結界の中へ入ってきたのですか? 中に入れば感知出来るはずなのに……」
彼に向けて、強めの言葉が出てしまう。
だって、私の魔法が破られた悔しさと、彼の美貌に見惚れた自分に腹が立ったのだ。
「ああ、素晴らしい魔法だったよ。だけど、ボクの魔力の方が高い。魔法式を変えさせてもらった」
「魔法式を変えた? さすが、辺境伯様ですわ」
「違う、カエサルだよ。ローリス嬢」
私に向けた優しい青い瞳、柔らかい声。
カエサル様の美貌で言われたら、殆どの女性は胸をときめかす。その中に私も含まれている。
――妹を好きだったくせに、女性なら誰でもいいの? 結婚するのも、私の研究が欲しいだけのくせに。
「その瞳も……いい」
「え?」
「ここにいたら、ローリス嬢を襲ってしまう。隣のタロのところで朝まで眠るから、おやすみ、ローリス」
私の頬をひとなでして、カエサル様はテントを出てった。彼に「おやすみ」と言われても、寝ることが出来ない。
(カエサル様は妹が好きだった……)
さっきから、頭の中に同じ言葉が繰り返される。誰が見てもお似合いの2人だったから、妹が婚約者だったミサロ殿下を選ぶとは思わなかったし、さっきの彼の言葉は私に向けられた言葉じゃない。
(わかった。私の研究が欲しいから、彼は演技をしているのよ)
私に魅力がないから、ミサロ殿下を引き止められず妹を奪われた、私は彼に嫌われているはずだもの。
最初のコメントを投稿しよう!