傷ついた天使

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悪魔はじりじりと詰め寄ってくる。 言葉でも、物理でも。 「天使クンもオイラの存在に気付いてたでしょ」 「……っ」 「図星でしょ。ねぇ、天使クン……!」 悪魔の言う通りだ。 俺はずっとこいつの存在に気付いていた。 この辺りを空中散歩しているときに、何度か見かけたことがある。 こいつもずっとこの辺りをうろついていた。 最初はやたらと視線を感じてうざったく思っていたけれど、気が付けば俺の方も悪魔に視線を向けるようになってしまっていた。 その間に会話があったわけじゃない。 実際に目が合ったことはない。 それでも……それでも……。 「天使クン。一緒に行こ。オイラたちだけの場所に行こーよ、ねぇ」 悪魔が甘い囁きで俺に手を差し出す。 「天使クン」 縋るように、懇願するように俺を呼ぶ。 「オイラの願い事なんだよ。ずっと、ずっと。……天使クンがほしい。どの悪魔にも叶えられない。オイラにも。ねぇ、叶えてよ、天使クン。……代わりに、対価に、オイラのなんでもあげるから」 これ以上に自分に言い訳する言葉が思いつかなかった。 だとしても、俺は痛む羽でさっさと羽ばたいてこの場を後にすべきだった。 それなのに。 「だったら、お前の全部を俺にくれ。俺から、離れて行くな」 悪魔の手を取ってしまった俺は、もう二度と天使と名乗ることはないだろう。 「仰せのままに、天使クン!」
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