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俺は声の主を探して背後を振り返るが誰もいない。
「反対、反対。上、上」
声を頼りに顔を上げれば、宙に浮く黒いシルエットが見えた。
夕日のせいで姿ははっきりしないけれど、その腰に羽が生えていることは分かった。
「あ、悪魔……」
「そうだよー。ってか、泣くほど痛かったの? プークスクス。恥ずかしいねぇ、誰にも見られてないと思ったらオイラに見られてて、プークスクス」
楽しそうに俺を笑う悪魔は、俺と目線を合わせるように近づいてきた。
逆光でも顔が見えるほどに近づいてきた悪魔は、眉を下げて可笑しそうに俺を見ていた。
跳ねた黒い髪に闇のような黒い瞳、漆黒のスーツを身にまとい全身黒づくめだ。
髪も瞳も服も白い俺たち天使とは正反対だ。
「な、泣いてねぇし! 夕日が思ったより眩しかっただけだから!」
俺は悪魔の背後にある丸いオレンジを指さして言う。
どちらかというと、あまりの情けなさと恥ずかしさが理由だけど。というか、泣いてはいない。ちょっと目に涙がたまっただけで決して泣いてはいない。
「でー? あーんな恥ずかしいケガの仕方してた天使クーン。人間界で何してんの? 天使なんてほとんど天界の引きこもりじゃんねー?」
「ただの散歩だし、引きこもりじゃねぇし」
「散歩でわざわざ下まで来たわけ? うっそだー」
別に嘘ではないけれど、それを信じてもらうのも馬鹿らしく感じて口を閉じた。
悪魔と関わるだけ時間の無駄だ。
俺はさっさとここから立ち去ろうかと思い、まだ痛む背中の羽を広げた。
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