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今から帰るのか、それともまだ仕事の途中なのか。地上は忙しなく人が行き交っている。
「こんなに頑張ってる人間チャンたちに、最期くらいいい瞬間を味わってほしい。でも何かを手に入れるには対価が必要。それを叶えるには……悪魔と取引をするためには、魂が必要ってだけ。自分の魂に見合う願い事は、人間チャンたちが考えるけど、それが本人の魂に見合ってるかどうかはオイラにはわかんない。何が欲しいかは人それぞれだからねー」
魂を奪うことに悪びれた様子もない。
結局こいつも悪魔なんだ。
「でもさー。……もっと違うこと願えばいいのにって思うことはあるよ。地位とか権力欲して、自分のことだけを考えた人間が家族を失うところを何度も見たことがあるわけよ。で、すっごーく落ち込んでんの。自分が大事にしたいもの、好きなもの、手放したくないものはちゃんと考えないとだよねって。悪魔やってての教訓」
こっちを見た悪魔は、薄暗い中でも分かるくらいに満面の笑みを浮かべていた。それはまるで幼子のような無邪気な笑みだった。
悪魔なのに邪気がないとはこれまた奇妙だ。
いや、ある意味純粋と言えばそうなのか。
「でさ、オイラもちゃんと考えるわけよ。悪魔なりに」
悪魔はそう言って俺をじっと見つめる。
まるで向こう側に引きずり込まれそうな瞳に、逃げた方がいいと分かっていながら指一本動かせない。
「オイラの好きなもの。手放したくないもの。それって天使クンなんだよね」
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