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今朝もぐったりと目を覚ました。
この一年程、毎日同じ夢を見続けている。
夢の中、私は荷物を持ってひたすら歩いている。
荷物の中身は判らない。ただ、袋に入ったそれをぎゅっと抱え、私は進み続けるのだ。
抱えた荷物は、最初はもっと軽かったような気がする。でも疲れのせいか、日増しに重く感じられ、今では息切れしながら歩くようになった。
この荷物は何なのかな。
どこまで運べばいいんだろう。
いつまで持ち続けるんだろう。
ずっとそう考えながら歩く。歩いて歩いて目が覚める。
そんなことを繰り返していたある日、歩いている途中で荷物がふいに消えた。
長く忘れていた身軽さに心が弾む。その直後に電話の音で目が覚めた。
母が入院している病院からの電話。容体が急変したから来てくれと言われ、慌てて病院へ向かったが、私が着いた時、すでに母は亡くなっていた。
一年前に交通事故で昏睡状態になり、ずっと目覚めることがなかった母。
その亡骸を見て一番最初に湧いた感情は、夢の中で荷物が消えた時と同じものだった。
あの荷物は何なのか。これまで、ただ疑問視していたけれど、本当はとっくに判っていた。
あれは母だった。私が抱えた荷物の正体は母だった。
たった一人の肉親。かけがえのない存在。それでも、意識もない相手をただ生き永らえさせる状況は負担だった。私は、ずっと母を重荷と感じていた。
お母さん、そんなふうに思ってごめんね。だけど私、それでも荷物を手放さなかったよ。最後まで抱えていたよ。だから…そんなふうに思っていた私を許して。
静かに涙が溢れ出す。そんな私の耳に、『いいのよ』と告げる母の声が聞こえた気がした。
夢の荷物…完
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