第一章

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「警察の調書によれば、先に死んだのが修道士七名。数時間後にピエトロ、だそうだ」 「じいちゃん、あんな状況で生かされていたのか」 af3847ee-02d9-46fc-9c89-af1b20d85ab3  ロレンツォの顔が曇る。 「孫の君にはかなり言いづらいのだが……。私が警察から入手した情報によれば、ピエトロには性交の痕があったようだ」 「……はあ?」  鼓膜が張って耳がキーンとした。  どういうことだ?   理解できない。  あの惨状を目にしながら誰かと?  その誰かって誰だ。  吐き気が込み上げてきて、手で口を覆った。 「犯人は女?」 「飛躍しすぎとは考えないのかい?女性はたまたまあの場にいて、たまたまうまく逃げおおせた、とか」 「できすぎている」 「じゃあ、大人の男八人の首を一晩で落とせる女なんていると思うのかい?」 「だったら、犯人は誰なんだっ?!」 「人―――あらざるものだろうね」 「化け物?はっ。ありえねえっ!!」 「この世の全てが分かるかい、君は?」 「これまで修道士しか殺されてこなかったのに、何でじいちゃんまで巻き込まれる?」 「調査中だ。いずれ捕まえる」 「あんた、美術鑑定士だろ?探偵もやっていたのか?それも人外の」 「当たらずしも遠からず。美術限定の探偵みたいなものさ。時に警察、裁判官もする。我が国の美術は、教会とともに発展してきたのだから、修道士だって調査の対象だ」 「でも、じいちゃんは葡萄とワインを作っていたただの農夫だ。知っていることを全部教えてくれ。今すぐに」  するとロレンツォが、家を出てさっさと車に乗り込む。  つられてサライも助手席に座った。 「頼むって」  せっつくと、ロレンツォがハンドルから片腕を放し、スーツの胸ポケットを探った。  手渡されたのは、血で染まった小さな紙切れ。そこには十一桁の数字が書かれている。 6de2a613-0e48-4b6e-9891-c74a307eb2db 「看守に、君に返すものはないかと訪ねたらこれを」  奪い取って、親の仇みたいに握りしめる。  自分に何かあったらここに電話するようにと、何年も前に祖父から渡されていた携帯番号だった。  名前は知らない。  性別も。
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