第一章

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  自分のスキルなら、契約者が誰なのか調べるのは数秒あれば済む。  でも、今まで一度もしなかった。  絶対に捨てるなと祖父から口酸っぱく言われていたから、仕方なくリビングにある役所からの手紙や、いつ貰ったのかも忘れてしまった旅行土産のキーホルダー、チラシなどにまみれたコルクボードにダーツの矢で刺していた。  そして、あの晩。  この紙にすがった。  矢に刺さったままの状態で引きちぎったから、上部には穴が開いていた。  ロレンツォが今度は裾のポケットに手を入れる。取り出したのは携帯だ。 「連絡したことは無いんだろう?いい機会だ。今、してみたまえ。まあ、私からかかってきたと思って最初は怒声を上げるだろうが、そこは勘弁してほしい」 「いい」  サライはロレンツォが運転中にも関わらず、強引に携帯を突き返す。 「あんたの知り合いなのか、と聞く余裕すら無しか」 「黙れよ」 「いいや。黙らない。いざというときは、意地を張らずに頼るんだ。きっと飛んでくる」 「いいって言ってんだろっ!」  怒鳴ると、涙を流したいときみたいに喉がきゅっと締まる。  それが悔しくて、ずっと窓の外を見続けた。  四時間と少しのドライブを終えて、フィレンツェに到着した。  ロレンツォの館は観光客で賑わうフィレンツェ市内のど真ん中にあり、鉄の門をくぐるとテニスコート八面ほどの広さの庭。中央で壺を抱えた女神の噴水があり、ドバドバと水を流していた。そこの脇に車を止める。  ロレンツォが玄関を開ける。  廊下を伸びるのは赤い絨毯。  さっそく、銀の甲冑と兜、用途不明のでかい壺がお出迎えだ。  beedfb4a-83bd-49fb-a880-3f5ff1df3903 「こっちが普段使いしている食堂。アンジェロと最後に会話したのがここだ」  覗くと横長のテーブルが置かれてあった。その奥は、ガス台やオーブンなど。窓からはさっきの中庭の緑が見えた。綺麗すぎて映画のセットの中にいるみたいだ。  少し歩いて階段を上がる。  その最中に現れるのは、絵、絵、絵。  馬に乗っていたり、剣を振りかざしていたり、タッチが異なるから絵描きは全員違うだろうが、この館の雰囲気にぴったり収まっている。  飾るのにかなりのセンスが問われそうだなと思いながら眺めていると、 「絵は好きかい?」  ロレンツォが二階へと続く階段を上りながら、聞いてくる。  無視した。  ニ階の廊下からは先程の庭が見えた。 「地下一階、地上三階。客室は百。だが、住居としては南側の一面しか使ってない」  聞きもしないのに教えてくれた。ちなみに、他の三面のほとんどの部屋はコレクション部屋だそうだ。
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