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ロレンツォが一室を開ける。
「どうぞ。ここが当面、君の部屋だ。疲れが溜まっているだろうから、少しゆっくりしたまえ」
去っていこうとする彼を、サライは「おい」と呼び止める。
用意されていた客室には、何故かオレノ村の自室にあった品々が運び込まれていたからだ。
窓辺のアンティークな机の上にはデスクトップのパソコン。八面あるモニター。ノート型パソコン。携帯はご丁寧に充電中ときている。
床の隠し収納にまとめてあった貴重なフィギュアや本も、ダンボールに入って机の足元に置かれていた。
「どうして僕の荷物がここに?警察に押収されたのを取り戻してくれたのか?それにしたって手際が良すぎる」
「手際?そもそも君の荷物は警察に押収されていない。見つかったらやばいデータがわんさとあるだろうし、これ以上、複雑な事件にしたくなかったからね。運び屋に依頼しておいたのさ。駄賃をたんまりせびられたが、まあ、それはいい。息子の部屋は隣だ。居なくなった日のままにしてある。失踪理由の参考になりそうなら、他の部屋も好きに見ていいよ」
扉を閉めかけるロレンツォにサライは聞いた。
「あんた、本当に僕に探偵まがいのことをさせたいのか?」
「私は息子が自ら消えたのか、そそのかされて消えたのか知りたい。そして、失踪理由を突き止めた上で、できるだけ早く館に戻して欲しい。息子は努力家で才能があるからピアノコンクールで優勝するに決まっているが、親としては万全な状態で望ませてあげたい」
流れるように答えたロレンツォが「じゃあ、私は下にいるよ。今夜、やらなければならないことがあってね。その準備があるから」と言って部屋から出ていく。
「あんたの側にこれ以上いたくないから、息子は養子縁組を解消したがってんだろうが」
サライは、ぶつくさ言いながら携帯を手に取った。
久々の電子機器。
通知が数万溜まっている。
もう過去の情報だから価値はない。
「うう。手に取るのが久々すぎて、身体に震えが走りそうだ」
ひとまずベットに腰掛ける。数時間前までいたくそったれな場所とは比べ物にならない程ふかふかだ。
その上でゴロゴロ転がりながら携帯を眺め、ざっとニュースのタイトルをだけ流し読みして消去しようとしていると、『ロレンツォ・ディ・メディチ氏』という文字が飛び込んできた。
読み上げる。
「流浪の絵、ついに母国に帰還か。落札に名乗りを上げているのはイタリアのロレンツォ・ディ・メディチ氏。イギリスのリチャード・クリスティン社にて今週末に行われるオークションで絵画の落札記録をかの絵は大幅更新すると予測されている。推定価格は現持ち主の中東の王子の落札価格四.五億ユーロの倍の九億ユーロ(一千四百四十億円)が見込まれて……って一枚の絵にこんな値段が?!」
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