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手錠がかかった両手で面会室のガラス窓を叩く。
「じいちゃんにあんなエグいことをできるわけがないだろっ!!」
ロレンツォが破れた封筒の端を持って、軽く手のひらに叩きつけながら言う。
「騒ぐと、看守が飛んできて面会は即終了となるぞ」
「もしかしてそれ、事件の新情報が書かれた資料か?」
「いいや。これは別件」
「あんた何しに来たんだっっ!」
金切り声を上げると、
「そりゃあ、ベアリング・キャット殿に会いにさ」
嫌な予感がした。
これみよがしに見せてきた破れた封筒。
連呼されるベアリング・キャットという仕事名。
詐欺師みたいな風貌の男を疑り深い目で見ていると、ロレンツォは楽しそうにひび割れが走る面会室の壁を眺め始めた。
「そろそろ君の移送が始まる。十八歳を過ぎたのだから成人の収容所の方にね」
と言ってここでにっこり。
「今までは独房だったが、これからは集団部屋。ごみ溜めみたいだと感じることだろう。なんせ、いるのは窃盗犯。違法薬物の摂取者。強盗犯にテロリスト。言葉が通じない移民。それらが一緒くたに集められていて、明日の命だって保証されない。モラルの低い若い者の集まりに投げ込まれたら、その顔が歪まない日は無い。長く伸ばした前髪とダサい眼鏡で隠しても無駄だよ」
「少し黙ってろよ」
「さっきはせかしたくせに?で、君、生まれ持った悪運は、いつ発動するんだい?」
聞かれて、勝手に眉根がピクッと動いた。
「何のことだ?」
「隠さなくて良い。こんな窮地に陥っても君は希望を捨てていない。乗り切れると思っているからだ。だから、発狂せずにいられる」
サラリと言われて、ロレンツォを凝視。
確かに、自分は悪運が飛び抜けて強い。
子供らだけで立入禁止の遺跡に入りこんで、天井が崩落しても自分だけ無事。街で車が突っ込んできたときもそうだった。きっと、近所で不死身の悪童と呼ばれ、敬虔なカトリック教徒の老人らからは気味悪るがられていることもこの様子だと分かっていそうだ。
ロレンツォはアルミの机の置いた封筒の上に指を起き、人差し指、中指、薬指、小指と順番に動かしパラリという音を立てる。
「考えてもみたまえ。悪運が早々に発動されていれば、ここまでの事態にはなっていなかったはず。つまり、異常事態ということだ。君も薄々そのことに気づいている」
「あんた、僕に何かさせたいんだな?」
と言うと、ロレンツォが顔をパッと輝かせる。
「おお。察しがいい」
「幻の美術品なんて探し出せないからな。盗品の追跡も無理。美術の知識はまるで無い」
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