31人が本棚に入れています
本棚に追加
ザワザワザワザワ。
波のように会場が揺れれいる。
もうこれ以上の価格更新は雰囲気的にあり得ないはずなのに、オークショナーマフィアはまだ小槌を振り下ろさない。それどころか、悪魔でも見るような目でロレンツォを睨んでいる。
ホールが視線の行き先に感づき始めた頃、オークショナーマフィアが人の頭でもかち割るくらいの勢いで台に小槌を振り下ろした。そして、ロレンツォのパドルナンバーをやってられるかという投げやりな態度で読み上げる。
またも自然発生的に拍手が沸き上がり、ロレンツォが我は勝者とばかりに席を立ち上がる。
(こいつ、マジで九億ユーロで落札しやがった。しかも、他の入札者を札束握りしめた拳でぶん殴るようなやり方で)
隣りに座っていただけなのに、自分の方まで緊張していたらしい。
一気に身体が緩んでいく。
(本当に疲れた。早く帰りたい)
やれやれようやく終わったとモニターに映された青い衣を着たバストアップの男の絵を眺めていると、画面が不自然に揺れた。
「は??」
次の瞬間には、絵の側に男が二人立っていた。
「あいつら、誰だ?どうやって入ってきた?」
まるで時空を飛び越えてきたような姿の表し方だ。
一人は目が完全に隠れるぐらいの長さの強いくせ毛の男だ。
例えるなら、鳥の巣みたいな。
カメラの背中を見せているもう一人の男はくせ毛男よりも大柄だった。絵を眺めながら肩を怒らせているのが分かる。
別室に緊急ブザーの音が急に鳴り響き、二人が辺りを見回した。
お陰で大柄な方の顔もはっきり見えた。
怯えを含んだ目には見覚えがある。
「ア……アンジェロじゃねえか」
驚いていると、隣にいたロレンツォが席にゆっくりとパドルを置く。
「おい!あそこにいるのはあんたの息子だって!!」
とサライはロレンツォに掴みかかった。
「ああ。そのようだね」
「少しは焦れよ!息子があんたの目の前で強盗事件をやらかしているんだぞ」
捲し立てながら、でも、頭の片隅では冷静に考える余裕が生まれ始めていた。
父親が手に入れた九億ユーロの絵は、養子のままでいれば息子のアンジェロが相続することになるはず。
なのに、養子でいることを拒み、さらには父親が落札した絵を盗もうとしている。
その意図は何だ?
―――分からない。
笑えるほど、全く。
一つだけ言えることは、ロレンツォのこの落ち着きぶりからしてオークション会場への息子乱入をある程度予想していたのではないかということだ。
最初のコメントを投稿しよう!