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きっと、あの絵に何かしら因縁めいたものがある。
ロレンツォが顔を上げ、急に舞台に向かって声を張った。
「レオ。別室の方を頼むよ。私はホールを守るから」
モニターを眺めていたオークショナーマフィアは、「指図するな」と瞬時にピンマイク越しの声。
レオという名前らしい。
「大丈夫。お連れ様は丁重に守る」
とロレンツォがサライの背中を軽く叩いてさらに声を張ると、
「だから、オレにお前の息子をなんとかしろと?」
とレオが、さらに声を荒げる。そして、鬱陶しげにモニターに向かって手をかざす。
くせ毛の男が、ガラスケースに手をべったりと触れていた。防弾ガラスであろうそれが真夏のアスファルトの上に落とされた氷みたいに溶け出したのだが、その勢いが急に止まる。
だが、絵は十分にガラスケースから露出していた。
「アンジェロッ。早くっ」
肩を怒らせる青年が絵を乱暴に掴んだ。
(別室にいたから、九億ユーロの価値が付いたことは知らないのか?)
いや、でも、それ以前の価格は知っているだろう。
四億五千万ユーロ。九億ユーロの半分だが、それでも莫大な金額だ。
なのに、その絵を鷲掴み。緊張も恐れも何もない。
おかしい。
盗んで転売するつもりなら、もっと丁重に扱うはず。
くせ毛の男は手に握った小さな拳銃を画面方向に向けた。
パンッ。パンッ。
乾いた音。
絵を抱えて逃げかけていたアンジェロが音に振り向いて、驚愕な表情を浮かべている。
警備員が死んだのかもしれない。
一方、ホールでは「遅いよ、レオ」と不満げなロレンツォ。
「てめえの育て方が悪いんだろうが」
と怒り心頭なオークショナーマフィア。
レオの視線から俯きがちに逃れたロレンツォが、
「さらに客人のようだよ」
「そっちは任すからな」
案外、二人はいいコンビのようだ。
普段いがみ合っていても、いざとなったら協力しあうバディものの刑事映画みたいな。
エヴァレットやチャールズたちが、声を張り上げオークション参加者やメディアをホールから避難させている。
「早く!早くホールから出てください」
「ここにも襲撃が予想されます」
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