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人の流れにつられるようにして逃げようとしていたサライは、急に床にできた影に気づいた。続いて、圧倒的な圧。ロレンツォの館で見た絵から感じた同じ種類のものだ。
天井を見上げた。
「……女だ」
自分の目が捉えたものを、脳が上手く処理しきれない。
ふわふわと女が浮いていた。
片手に剣。もう片手には巨大なバスケット。中には男の頭部が果物を詰め込んだみたいに山盛りに入っている。鮮血が籠の隙間から垂れていた。
野蛮だけれどゴージャスで、優美だけど戦闘的。
それでいてアンニュイで投げやりな感じもして。
そして、圧倒的艷やか。
格好だけは、時代錯誤すぎて違和感があった。
胸下やウエストのあたりを紐で絞った不思議なデザインのロングドレス。
色は青。
サライはハッとした。
「アンジェロが検索……」
だが、アンと言った辺りで焦点を合わない目でホールを眺めていた女がサライを認識し床に降り立ち、ジェロと言い終わったときには、物凄いスピードで駆け出していて、目の前に立っていた。
なんて、速さだ。
人間とは思えない。
(そもそも人間は空に浮かねえし!)
女のバスケットから、ぼとりと生首が一つ落ちた。
切断面から溢れる血が青い絨毯をじわりと濡らし、黒に染めていく。
「ゆ、有害指定マテリア!なんで、ロンドンに?!」
先程までキリッとしていたエヴァレットが関係者だけになったからなのか死にそうな声で叫びながら、避難のために開いていた扉に手を翳す。
ホラー映画みたいに、幾つかの扉が勝手にバタンッ、バタンッと閉まり始める。
「おお。生で見ると綺麗だな」
余裕があるのかチャールズはニヤニヤ。
逃げ遅れたオークション参加者が「開かない!?開かない??」と扉を引いたり押したりしている。
舞台袖に引っ込んだレオと入れ違いに出てきたイザベラがロレンツォに憎々しげに指示する。
「なんたるざまなの、ロレンツォ!こっちは、他の事件で手一杯だっていうのに。イタリアの問題はあなたに一任しているんだから、きちんと解決してちょうだい。エヴァレット。チャールズ。逃げ遅れたお客様を非常口にご案内」
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