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「物。風景。そして」
死神がロンドンの夜景を見つめる。
「勿体ぶらずに言えよっ!。あの女、絵の中から出てきたってことだな?」
「我々の世界では、肉体を持つ絵の登場人物のことをマテリアと呼ぶ。つまり、君がまともに戦っても勝てない相手」
「ロレンツォ公!だから、頼む!その鎌であの女を。一生奴隷でいい。あんたが依頼するネットのダークな仕事は全部する。それで警察に捕まっても構わない」
「ハハハ」
と死神が笑う。
「今まで何を聞いていた?ベアリング・キャット殿。まともに戦っても勝てないと私は言っただろ?君は特定屋だ。その能力は何のためにある?」
「やりようによっては、僕にも勝機があるってことか?」
「肉弾戦ならまあ、勝ち目は無いだろうさ。あの女の剣戟は凄まじい。アンジェロも呆気に取られていた。音楽学校の練習室に突撃してきたからね」
サライは凄まじい速さで動いていた女を脳裏に思い浮かべる。
そして、ちょっと待て、と思った。
「アンジェロはどうやって助かった?」
「私が助けた。この格好でね」
「あんたの正体は?」
黒衣の巨体は、確かめてみろと言わんばかりにぬっと顔を近づけてくる。
「どこかで見たことがあるぞ!あ、バーントなんとか。そうだ!館の壁に飾られていたでかい死神そのものじゃないか!!」
「よく覚えててくれたね。関心、関心。バーント・ノトケ。アンジェロは、バーントの死神さんと呼んでくれるがね」
「あんたも絵から出てきたってことか?つまり、絵の登場人物なのか?」
「いいや。人間だ。ちょっと特異体質のね。現時点ではそう説明しておこう」
「この世のどこに、死神に変身できる体質の人間がいるんだよ!!」
「だから、ここに」
「あああああ~~~~~っ、もう。話が通じない。あり得ないだろ。じゃあ、青いドレスの女もか?」
「あれは、正真正銘、絵の登場人物」
「じゃあ、二種類あるんだな。あんたみたいに、人間だけど絵の人物になれるのと、絵の人物そのものと。エヴァレットとチャールズが命令を絵の人物にしていたなら、青いドレスの女も誰かに命令されて動いているということか」
「今までのパターンでいったらそうだろうね」
「ってことは、イレギュラー?」
「それをこれから調べようとしている。それにしても、あの状況下でよく観察できているねえ。偉いぞ、サライ。さ、上空は寒くて身体が冷えてしまう。行こうか。飛行機に乗れたのだから、高所は大丈夫だね?」
「そもそも、何で浮いていられる?!」
「言っただろ。死神だから」
「全然、説明になっていない!どこに行く気だ?降ろせっ!」
「いいけど」
ロレンツォがサライの腹のあたりを掴む力を一瞬緩めた。
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