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足元にはかなり横幅のある河。そして、重厚で巨大な跳ね橋がライトアップされている。
身体がゾワッとした。
「冗談だ。これで少しは興奮も覚めただろう」
死神の声は少し疲れているように聞こえた。
跳ね橋の方向に向かって飛び始める。
「行き先は、ロンドンパレス。歴史の古いホテルで、各国の王族御用達。そして、リチャード・クリスティンの連中の多くがそこを家代わりにしている。今夜の君の宿もそこだ。スウィートルームだから、快適なはず」
「宿なんかいらない。あの女を探せよ」
「再び出会えたところで何も出来ないだろうが。頭に血が上ると、一瞬で判断力が低下するようだな。特定屋。今、君がするべきことは、誰が使えるか見極めることだ」
河を渡り終えるとすぐに大きな建物が見えてきた。
死神はそこの屋上をめがけて鳥のように滑空。
内部に入ると、最上階の廊下にサライを立たせた。
膝がかくかくする。
身体に力が入らない。
自分は相当怖かったらしい。
たまらず廊下にへたりこんだ。
「ほらね」
と言って、死神がサライの襟首を掴んで廊下を引きずっていく。
扉に付いたカードを差し込む場所に骨だらけの手をかざすと、カチッと音がして、取っ手を回すと扉が開いた。
「本来、君の部屋は隣なのだが、家主は不在だ。先に部屋にいてもいいいのだが、感動の再会が薄味になってしまう」
「何、言ってるのか分かんねえよ」
二人掛けのソファーに物のように投げ飛ばされ、サライはそこに丸まる。
ロレンツォは一人がけのソファーに。
「この姿だと、お尻がキチキチで不便だねえ」
と言いながら懐から携帯を取り出し弄り始める。
死神が携帯。
なんともおかしな姿だ。
「戻ればいいじゃねえか。人間の方に」
「これからもう一仕事あるものでね」
少し時間が過ぎて、気づいたらエヴァレットが急に部屋に表れて、サライが元々着ていた服をソファーに放り投げるようにして置いていった。銀色の甲冑を着た女と一緒だ。
ロレンツォには早口で報告。
「切り落とさればかりの頭部が四つ、ホールの床に落ちていました。取りに戻ってくるかもしれません。警戒を強めます」
「エヴァレット。僕も……」
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