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第三章
ガラスケースから取り出した絵を膝でへし折ろうとしていたら、アンジェロは背中を掴まれた。
やったのはくせ毛男だ。
気がつくと、絵が一枚だけあったがらんとした部屋から、菓子やパンくずが散らばる汚い部屋に。
息が乱れる。
瞬間移動のときはいつもそうだ。
アンジェロは絵を抱えたまま背中で息する。
ロレンツォに対して絶え間なくこみ上げてる怒りで我を失いそうになっているせいか、胸元の絵がぼんやり光っているように見える。
「よくやった」
くせ毛男がひょいと手を伸ばしてきて、絵を奪っていった。
しげしげと眺め、
「くああー。これが九億ユーロの絵なあ。巨匠のネームバリューってすげえな」
とわざとらしく驚いて見せる。
アンジェロは汚い床に座り込んだ。
ここはくせ毛男が借りている高級ホテルの一室だと思うのだが、見事なほど荒れ果てている。
彼はどんな場所もゴミ屋敷にしてしまう特技があるのだ。
膝を抱えて顔を埋める。
もう何も聞きたくなかった。
きっと父親は、あの会場にいただろう。
絵を盗む自分の姿をはっきりと見たはずだ。
(よりによって、父さんが欲しがったのがこの絵)
以前、この絵のせいでたくさんの仲間が死んだ。
なのに、自分はこの絵を使って父親に命乞いをした。
そして、少し時間が過ぎた後、父親はこの絵を無くしたと息子に嘘を付いた。
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