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現実にはあってはならない光景なのに、全てが完璧な美で構成されていて、見惚れるしかなかった。
女は無言で剣を振り上げる。
よくできた模造刀とばかり思っていたが、きちんと観察すれば刀身は鋭い。
「それ、本物?!」
答えは無いまま、剣は振り下ろされた。
反射で、椅子から転げ落ちる。
真横でピアノの椅子が真っ二つに割られ木くずが飛び散った。
なんという剛腕。
床に倒れたアンジェロの腹の上に女が跨った。
白い手が掴む剣は綺麗だ。そして、見下されている感がたまらない。
「俺っ、貴方に何かしたっ?!」
こっちは絵を通して姿だけは知っていたが、女は自分のことなど知らないはず。
ましてや、殺されるほど恨まれるなんて覚えがない。
女は躊躇無く剣を突き出してくる。
フェンシングみたいに突き出される剣をぎりぎりのところで右に左に避けながら、アンジェロは女の下から這い出した。
「このままじゃ死ぬっ!」
なんとかして練習室から抜け出さないと。
力が抜けた足で、練習室の扉を目指す。
死の一歩手前。
ひりつくような絶体絶命感。
この感覚、久しぶりだなあと脳内で冷静に思っている自分がいる。
要は、死の恐怖も慣れなのだ。
女は執拗にアンジェロの首を狙って剣を振るってくる。
「まさか、あの事件?」
ふっと、頭を過るのは、年明けから始まったイタリア全土を震え上がらせている首切り事件だ。
ターゲットは成人男性で決まって修道士。
「でも、容疑者は拘束されたはず……」
テレビに流れた顔写真は、男に興味のないアンジェロでも魅せられるほどの美形な青年で。
いや、そんなことを考えている場合ではない。
なんとかして、廊下に。
「助け、―――っっっっ」
声が止まったのは、ぶち破られた扉の側に何かが立っていたせいだ。
アンジェロは床に這った状態で、その何かを見上げる。
革のサンダルに包まれた巨大な足は、骨が剥き出し。
着ているのは、黒いローブ。身長は軽く三メートルを越える。
目元を覆うのは、同色のフード。骨だらけの頬や鼻が露出している。
そして肩に背負っているのは、穂先がギラギラと光る鎌。
まごうこと無き、死神だ。
必須アイテムといえる長い鎌を片手に持ち腕組みをしていた彼は、
「やあ。久しぶり」
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