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「何、言っているんだい?私は君をわざわざ迎えに来てやったんだよ」
「僕をここから出すって?十二歳のときみたいに簡単には出来ねえと思うぞ」
すると、ロレンツォが冷ややかな声で、
「私を誰だと思っているのだね?」
これは、ロレンツォがアンティークショーで使う決めセリフだ。
いつも、ここぞというシーンでだけ使う。
そして、大いに聴衆にウケる。
でも今は、観客はサライ一人だけ。
ロレンツォは、そのまま面会室の扉に向かう。
「おい!おいって!」
問いかけてもロレンツォは立ち止まることなく、聞こえてきたのは扉が閉まる音。
サライはあっけに取られる。
十秒ほど過ぎても、ロレンツォが戻ってくる気配は無い。
「ふ、ざ、け、ん、なっ!!」
怒りが込み上げてきて、言葉の数だけ、アルミの机に額をぶつける。
「結局、冷やかしか?!」
この事件は国中が注目している。
いくらロレンツォに権力があったとしても、今回ばかりは無理。
事が大きくなりすぎている。
自分は世間から見たら残酷な猟奇的殺人犯で、それにはこの顔が一役も二役も買っている。
色んな場所から届く頭がいかれた女らからのファンレター。無実を信じているから幾ら添えたと手紙に書かれていても、現金は全部看守が抜いてしまう。
「ふ、ざ、け、ん、なっ!!」
もう一度頭を打ち付けると、看守が慌ただしくやってきてサライを立たせた。
「あったけえ」
未成年収容所を出ると、外を吹く風は春の温度だった。
捕まったのは、まだ寒い三月の初め。今は四月の半ば。
「まるでワープした気分だ」
サライはまだ手錠の感覚が残る手首をさすりながら歩き出す。
服は支援団体から寄付されたもので、ズボンがでかい。シャツは薄っぺらく春の気温にはちょっと寒い。
所持金は無し。持ち物も無し。
警察がやってきたとき、数字が書かれた紙切れを持っていたはずなのだが、それはどこにいってしまったんだろう。
「あんなの意味無かったけどな」
ギリッと奥歯を噛む。
「そんでもって、こんな釈放の仕方、ねえだろうがよっ!」
と叫ぶと、背後からゆっくり回るタイヤの音が聞こえてきた。
サライを追い越して少し先で止まったのは黒光りする車で、運転席でロレンツォがハンドルを握っていた。
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