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「乗りたまえ」
の言葉に対して、手を差し出す。
「バス代をくれ。あと、不当拘束の案件に強い弁護士の紹介も」
すると、ロレンツォが細長い上半身を折り曲げハンドルに額をくっつけ笑い始めた。
「その図々しさ、よく似たものだ」
「誰に?」
「そのうち嫌でもわかる。だから、乗って」
「あんたを代理でよこした奴か?」
「知りたい?」
「別に」
「車一つ乗るのに、勿体ぶるね君は。さあ、早く」
あおりにも、急かす行為にも乗らない。
車といえど密室だ。
(それに、こいつには僕に対して、代理人として収容所から救出したっていう大きなアドバンテージがある)
ロレンツォが真顔になった。
「私が欲しているのは君の能力。それ以外は求めていない」
「だったら、あんたの息子の失踪事件を調べるのと並行して、じいちゃんを殺した犯人を見つけたい。頼む。協力してくれ」
下手に出ると、身体を起こしたロレンツォは間髪入れず、
「駄目だ」
(……こいつ、頭から拒否してきやがった)
「こらこら。人でなしを見るような目で私を見ない。今は時期じゃないと言っているんだ」
諭されて、サライは不貞腐れた。
「じゃあ、一人でやる」
「君は驚くほど気が短いな?相手は一晩で八人の男の首を落としているんだぞ?一人で、それも丸腰で何ができる?」
正論に、言い返す術がない。
内心では言いたいことが山程あるのだが、あまりにも子供じみている。
それに、こんな男に心を許してはいけない。
ロレンツォがクスと笑う。
「今、君が何を考えているのか当ててやろう。権力もある大人なんだから、あんたが手伝ってくれればいいのに?でも、それと引き換えに変なことをされるかも?いやでも、思い切って懐に飛び込んでいろいろ探れば弱みを握れるだろうし、こっちのペースに引き込めそう?けれど、私にここまで読まれているのにうまくいくかな?」
「……」
「いいねえ。いい!頭の中を依存心と警戒心がぐるぐる巡っているその顔!君みたいに容姿が優れた子は警戒心が強いのは悪いことじゃないが、相手を信頼する勇気も必要だよ」
弱虫と遠回しに言われた気がして、乱暴に助手席のドアを開け、革張りのシートに勢いよく座った。
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