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なんともまあ座り心地がいい、そのせいで逆に居心地が悪い金持ち仕様のシートに。
サイドミラーに映る灰色の要塞のような建物が遠ざかっていく。
「一般人が出入りするというのに、ひび割れた壁。剥がれや床。なかなかのコンディションだった。でも、私には上品すぎる場所だがね」
「キャラブレしてんぞ?いつも、金の産着に包まれて育てられたって番組で言ってるくせに」
「おお。見てくれていたのか。それは嬉しい」
「とっとと、本題に入れ。これから僕は、どこで何をすればいいんだ?」
「フィレンツェに向かう」
ここはフランス国境にほど近いミラノ県の山の上。フィレンツェまでは軽く四時間はかかる。
「何しに?」
「私の館がある。息子が失踪した日のままにしているから、実況見分を」
「まずは警察に相談しろよ」
「仕事が遅いことで有名な我が国の警察に何ができる?それに息子の失踪は警察の管轄外。彼らじゃどうにもできない」
「なら、僕だってそうだろうが。ただの特定屋だぞ」
「知っている。オープンソースインヴェスティゲイションをいう手法を使って噓と虚栄心にまみれたネットの海から、真実を見つけ出す。屋号がベアリングキャット。『ネズミの相談』という童話が元になっている。難敵の猫の首に鈴をつければ自分たちは生き延びることができるが、それは死と隣り合わせの行為。その困難に敢えて挑む者を指す」
サライは、こいつは本当によく喋ると思いながら、未成年収容所の丘を下り始めた車の窓にもたれかかる。
「オレノ村に寄ってほしい」
「家に行きたいのかい?よせ。殺人現場になった場所だぞ」
「まだ夢を見ている気分なんだ。ロマ(ジプシー)とか物取りが大勢やってきて、家の中をめちゃくちゃにしているだろうからそれを見たら、ああ現実だったんだって思えるだろ」
そこからロレンツォは何も言わず、車を運転し続けた。
車内の音は、低いエンジン音と繰り返し流れるクラッシック音楽だけ。
曲名は知らない。気取ってやがると思っただけだ。
やがて車はミラノ市内を通り抜け、さらに数十分。田畑が目立つ田舎町へと入っていく。
朽ち果てかけている築二百年の農家が遠くに見えてきた。
「ひでえ」
野次馬が残していったのか、庭には菓子などのゴミが山のように散らばっていた。
玄関扉は壊され、居間の家具がなぎ倒されてるのが見える。
「私も入っていいかい?」
ロレンツォに聞かれたがサライは何も言わず、中に入っていく。
祖父が死んでいた居間を足早に通り抜け、自室へ。
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