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パソコンはモニターごと持っていかれ、飾っていたフィギュアも一体も無かった。
ベットが大きく横にずらされていて床下の隠し収納場所も開けられていた。当然、中身は空だ。
「綺麗に無くなっているから、ジプシーや物取りじゃない。たぶん警察が押収していったんだ。散々僕にどこにやったって問い詰めてきたくせに、結局お前らじゃないか。返してもらうには、どこに電話したらしいんだ?ああ、チクショウ。その連絡手段がねえよ」
怒りながらリビングに戻る。
ロレンツォが食堂脇にあるそこだけぽっかり白くなった壁紙を眺めていた。
以前は、絵が飾られていた。十年数年以上に渡って位置が変わること無く。
食堂から漂う油や窓から入ってくるチリやホコリのせいで年を経るごとに汚れていって、なんとなく人物の上半身が描かれているというのが分かるだけの代物だった。
ヨーロッパを流浪していた母親がオレノ村に住む祖父の元にサライを置き去りにするときに一緒に置いていったものだ。
「警察はあんな汚え絵まで押収してったのか?意味わかんねえ」
「さあ、それはどうだろう」
ロレンツォがそこから離れた。
そして、ソファーすらひっくり返されている荒れたリビングを見渡す。
「サライ。辛いことを聞いてもいいかい?あの夜はどんな感じだった?」
「何だよ、急に神妙な顔をして」
「私だって人の心はある。だが慰めるのは他が担当するから、軽く思い出すだけでいい」
「無茶言うな」
サライは祖父が倒れていた窓辺を見つめた。
正確に言うならば、祖父の胴体のみがあった場所を。
犯人が持ち去った首は未だに見つかっていないのだ。
あの夜の惨状を思い出しかけると、頭の隅がチリチリとし始めた。
ロレンツォに促されて答えるなんてシャクだが、吐き出したい気持ちもあった。
「夜遊びして遅くなった夜だった。リビングに入ってまず、暗闇の中で血の匂いが充満していることに気づいた」
「電気は?」
「付かなかった。月明かりだけが頼りで、最初に目についたのが首が無い男らが床に伏して血を流していたところ。揃いのローブを着ていたから、首切り事件のターゲットにされている奴らだってすぐに気づいた。次にじいちゃん。胴体に近寄っていく時にはもうパニックになっていた。じいちゃんの頭を蹴飛ばしてしまうぐらいに」
血の海と貸した床をゆっくりと転がる白髪と白ひげの老人の頭部は、サライの目にはっきりと焼き付いている。
「ピエトロの首はその時点であったということだね?そして君は恐怖で意識を失った」
ふむとロレンツォは自分の顎に手を起き考え始める。
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