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2話:私と君の魅力
大学三年の五月末、インターンシップ合同説明会の展示場で、高校で好きになった男の子「双葉タケヒロ」に再会した。
説明会も終わって帰りに話したいと言ってきたので、付き合ったあの子を嫌な気持ちにしないのか聞いてみたけども、どうやら三か月前に振られたそうだった。
タケヒロ君がフリーになった私はまだ諦めきれず好きだと言った。
反応は?
「ありがとう。近くに美味しい抹茶スムージーの店があるからそこで」
「分かった」
電子ギフトをもらって展示場を出る。
タケヒロ君に付いていって抹茶の店に来た。
抹茶の上にソフトクリーム、そこにさらにはちみつをかけたものが期間限定で発売されていた。
タケヒロ君に続いて頼む。
店内のテーブルで待っていると、はちみつと抹茶香るスムージーがやってきた。
「先ほども言ったけど、高校のとき好きだった子に振られた。嫌なところがあって、それは言われていたけど直せなくて。こんな愚痴みたいなこと言っても良くないのは分かっている」
「そんなことない」
「再会してすぐマイナスな言葉を言ってしまうところも指摘されていて。気を付けないと周りにいる人を今後も傷つけてしまうんだろうなって思う」
「どうして振られたのか詳しく聞いてもいい?」
「クレナが聞きたいなら断る理由もない」
タケヒロ君はソフトクリームを半分掬って食べると、残りをスムージーに混ぜていく。
濃い緑がだんだん薄くなる。
「あの子、好きな人ができたって聞いたけど」
「ああ。一つ年下の男の子だけど、アルバイト的には先輩で仕事を教えてもらっていたらしい。優しくて惚れたって。でもあいつの気が移りやすいとは言えなくて、俺の態度が良くなかったと思う」
「私もあの子のこと悪く言うつもりはないけど。全面的にタケヒロ君が悪いとも思わないし、相性とかもあると思う」
「そうか。俺、振られたけどまだ好きなんだ」
「その気持ち分かるよ。お似合い同士でもどうしてそこにいるのが私じゃないんだって思うことがあるから」
私はソフトクリームが溶けてしまって、諦めてスムージーと一緒にストローで飲む。
砕かれた氷の欠片がシャリッと舌を冷やして心地いい。
抹茶の風味がくどくないのはソフトクリームの濃厚な味わいのためだ。
「俺がクレナを振って、運命だってあいつと結ばれたのにこんな事態になってごめん。どうして振った俺を好きでいてくれたんだ? クレナたちを振ってあいつと付き合ってからもクレナたちが気になっていた。喧嘩しているわけじゃないけどばらばらになってしまって、もっといい道があったと思うことがある。あいつに振られて、自分がしてきたことが悪いことなんだって思って」
「違う。絶対に違う。私たちはあのとき、本気でタケヒロ君が好きでアピールし合って、そうしてできた仲間だったから。むしろ一緒にいたことがタケヒロ君のおかげだよ。だから、タケヒロ君が振ったことで関係が終わっても気にする必要はない」
タケヒロ君は頷く。
私は振られたくせに諦められなくて、もう一度好きって言ってライバルのいない状況で話している。
私がしていることは他のみんなからすればずるだろうけど。
この恋がこれ以上発展しなくても、きっと私は。
「このまま全部が終わったみたいな絶望、タケヒロ君に似合わないよ」
「だって、みんなを振ったのに、あいつにも振られて。もうどうしたらいいか」
「私に恋しなさい」
私は幼馴染でもなければ、頭がいいわけでも、運動神経がいいわけでも、明るく励ますことが得意でもない。でも大きく膨らんだ恋だけは、一度割れてしまってもすぐに「再生」してしまう。
このずるい、再生は私の特権だ。
でも下心だけではなくて、この出会いは運命だとも思う。
私は元気がなくなってしまった優しかった男の子を、まだ大好きな男の子を救いたいと思っているんだ。
「一度敗れた恋、私にもう一度挑戦させてほしい。タケヒロ君に魅力がない? 悪いところがないと言い切れないけどそれでも好きだった」
「クレナ……」
私はカップに口を付けてスムージーを一気に飲み干す。
アイスクリーム頭痛がした。
「俺はあいつと並ぶためには何かが足りなかった。そんな人間を好きって言ってどうする?」
「タケヒロ君にとって私は負けヒロイン?」
「振ったけど、負けとか勝ちとかそういうのじゃなくて。あのときはあいつが運命だって思っていて」
私はずるい、一度振られて開き直ってようやく言葉がすらすら出てくる。
タケヒロ君が傷ついているなら支えたくて仕方がない。
大好きなのだ。
「目の前にそれを超える運命があったら賭けてみる?」
う、うううううううううううううう!
私は何を言っちゃっているの?
恥ずかしいし、ロマンチックを求めすぎて意味が分からないッ!
タケヒロ君の反応は?
「俺、まだ一個前に恋に見切りが付けられていない。それでもいいかな?」
「もちろん。もし前回振られたときに足りないものがあっても、あれから結構頑張ったから魅力的になったと思う。おしゃれも化粧も高校のころはぶきにならなかったけど今は違う。勉強も頑張った。どうかな?」
「まだどうするのかいいか分からなくて、無責任だけど。その恋に期待していい?」
「うん」
こうして、私の再生する恋愛が始まるのだった。
ライバルがいない分ずるだけど、アピールして魅力を分かってもらって成就したらいいやって思えるくらい好きなのだ。
それくらいの置き場の無い大きな恋心でなければ、この恋を再開しようとはならない。
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