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第五章*嫉妬
はぁ。
楽しそうなのが、よけい苛つく。
なんで、
あんなふうに笑顔にしてやれるのが
俺じゃないんだろうか?
「優一、やっぱり俺帰るから…なおにはなんか理由つけて。」
「はい、了解です。」
お前まで嬉しそうに、俺を帰すのかと…
八つ当たりしそうになった。
「フッ…クズだな俺は。」
「え?」
「お前、聞こえてたろ?楽しんでるだろ?」
「はい。」
即答した、優一の腹に軽く拳を押し付けて
俺はその場をこっそりとあとにした。
愛してる、
そう言えるタイミングなら
ここ数年で何回もあった。
なんなら、さっきだって…言おうと思えば。
「クズで…そして、ヘタレなんだな。」
「誰が?」
「は?」
振り返ると、そこになおが立っていた。
「は?なんで?」
「うーん、海人が…さんが。」
「俺が?」
俺がなんだ?
せっかく会えたアイツラよりも…俺を?
「呼び捨て怒らないんだ?」
「あ?ああ…俺がなんだ?」
やっぱり、俺はずるい。
彼女に言わせようとしてる。
言うなって…言ったのに。
「え?あ、なんだっけ?忘れちゃった…。」
笑いながら額を拭っていた。
「お前…その靴で走ったのか?すぐ躓くくせに?」
「え?」
ふらついてるなおの腕を掴んだ。
今にも転びそうで、そして…俺は店先で彼女を抱き寄せていた。
「海人?」
「さんな?」
「フッ、さっきは怒らなかったのに?」
「誰が見てるかわからないからな、アイツラのところに戻れよ。」
「フッ、アイツラ?」
「あーはぁ、帰る。」
「私も。」
「は?俺はいいから、俺をこれ以上クズ人間にしないでくれ。ただの…嫉妬だから。」
「嫉妬?」
「ああ、そうだよ。」
アイツラといた時のような笑顔を魅せてくれた。
「その笑顔、魅せてくれただけで…気持ち晴れたから。また…明日な?」
「うん、帰ったら…電話する。」
「ああ、いいから…。」
「心配でしょ?」
「まぁ…あ、いいから。」
返事をした後…俺は自分自身に聞いていた。
その返事は、愛する女への返事か?
元生徒だった彼女への…違うな。
保護者的な…複雑な心境だった。
「なおちゃん?大丈夫?」
彼女の隣に座り、耳打ちをしていた奴が彼女を心配してか?俺等の後ろに立っていた。
「すみません、僕らが無理に会おうなんて言ったから…。」
なおが会いたい。
言ったんじゃなかったのか?
絶対、
にやりとほくそ笑んでしまった自覚があった。
「あーいえいえ。」
目の前にいる彼のように、微笑んでみた。
「海人…キモい。」
眉を寄せて、彼の横に立つと俺を指さしてきた。
「あ?さんな?…海人さん。」
「海人さん。」
なおで、なく…彼が俺を呼んでいた。
「あ、いえ。」
彼女は、周囲を気にすることなく声をあげて大笑いしていた。
そんな彼女を…彼は愛おしそうに見つめていて俺は驚いた。
「あ、あの…口の悪い女優ですが、皆さんと仲良くさせていただけているようで光栄です。あ、あと…ほんと、日本語すごく上手ですね。この人も、その昔…英語ダメだったんですが…きっと皆さんと出会って頑張ることができたんだと思います。」
言い切った後、俺は…自分の言葉に吐き気がした。
君より…彼女の事を知っている。
顔を上げた彼の表情が、変わった気がした。
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