第一章*再会

1/2
前へ
/17ページ
次へ

第一章*再会

俺はいつものように… 扉を開け、 扉を掴んだままフリーズしていた。 アイツが、優一のやつが、 一瞬ニヤリしたのに苛ついていたが、 俺が自らここに行くって言ったからだと。 俺の目の前に、彼女がいた! …俺をあの頃のように見つめてくれていた。 いや、俺が見つめ… 見てもらっていた彼女の瞳を。 「海人。」 気がつくと、 彼女は俺のところに 駆け寄り俺の顔を見上げていた。 「わっ、え?さっきまで、カウンターに座ってなかったか?」 「フッ、うん。」 俺等の会話を黙って聞いていた店内にいる、俺の知らない…人たち。 「あー私の先生です。」 「ああ、」 安堵とも言える漏れる声、 その、ああって…。 俺は彼女に腕を組まれ、引きづられながらさっきまで彼女が座っていたカウンターに座るように促された。 「…忙しいんじゃないのか?」 第一声が…そんな言葉なんて。 「うん。ありがたいことに忙しいよ、打ち合わせ。」 終始笑顔の彼女とは打って変わって、せっかく会えたのに俺はキョロキョロとあたりを見渡していた。 「あ、そうか。ごめんごめん…、またってことはないだろうけど、声かけてくれてありがとう。」 座ったばかりだったが、俺はすぐに立ち、 立ち去る彼女を見送ろうとしたが… 彼女は座ったままで、カウンターに立って接客していた田村、 田村めぐみ(たむらめぐみ)におかわりと珈琲カップを差し出していた。 「打ち合わせなんだろ?」 「うん、海人座って…。」 「いやいや、遠慮しておくよ。」 「どうして?打ち合わせしなきゃ、」 「は?もしかして?俺と?」 「そうだよ、海人…英語の他に話せる語学ある?」 「…悪い、優一のヤツうんって返事しただろうけど。」 あの頃のように、 俺の目の前に…彼女、櫻なおがいる。 こんなふうに俺をただただ見つめて、 俺の言葉を待っていた。 「あ、ごめん。」 正気でいられない…。 「忙しい?」 彼女は悲しそうな表情を見せると、しっかりと俺を見つめてくれていた。 俺は、キョロキョロとあたりを気にしているのに彼女は全く気にもしていなかった。 それに…正直、全く忙しくない。 「それなりに…。」 ダサい…。きっと優一のやつ、俺は暇だとか言ってるに違いない。 「そっか、じゃー海人に時間ができるまで…待ってる。」 そんなとびっきりの笑顔、 あれから5年経ってるとはいえ… あの頃のままだった。 「なに言ってるの!ちょっと、藤原、この子…あんたが、NO言ったらうん十億って予算ぶち込まれてる撮影延期にするつもりよ。」 「めぐみ、先生に負担掛けられないって。」 「いやいや、なおあんた…先生やっと連絡方法とれたのに、はぁ。」 田村は興奮して言葉を見失ったようだった。 うん十億って…え? 「ごめん、」 「受けてくれるよね?」 「いや、その前に…お前ら俺を呼ぶ時は、呼び捨てなのに二人の間では、先生って?」 「うざっ、そこ?気にするとこ?」 呆れた表情を見せる田村とうって変わって…彼女は笑顔を見せてくれていた。 「先生って…海人見て呼びたくいないの、知ってるでしょ?」 ずっと、モヤモヤしていた霧がかった心の中がスッと晴れた気分だった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加