かけがえのない一冊

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*  両親が離婚するなど珍しくはない。夫婦の関係が拗れ、家庭内の空気が常に悪くなったので、私から離婚してもらうよう切り出した。そうでなければ、母はしまいに骨と皮だけになりそうだったし、父はヒステリックな母に痺れを切らせ続け、余計に怒鳴り散らしただろう。  結果、私の家族はバラバラになったが、それで良かったと思う。ある時、母に緊急の知らせをしたことで、その良さが証明された。  元夫が危うく死にかけ、緊急入院をしたと聞けば、母は居ても立っても居られなくなり、助けたいと思ったようだ。  よく聞く話であれば、別れてしまえば他人であり、相手に構うことはないのだろう。しかしそれは、端から見る者がそう思うだけであり、当人達にしか分かり得ない、当人達にしか感じられない特別な何かがあるのかもしれない。何十年もの間、人生を共にしたのだ。書類だけで再び他人になったと決まっても、肉体はそうではないのかもしれない。  母は、入院した父に顔を見せることはしなかったが、看護師を通じて必要なものを届けた。更には、病状を気にかけるメッセージも送っていた。  だがそれらのアクションには、母と父にとって表現しようのない違和感と葛藤があった。そして二人は、娘である私を挟んで言う。
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