かけがえのない一冊

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「離婚したのに、今更こんなメッセージを貰っても、返事をするのがなんだか恥ずかしい……でも、俺が死にかけたものだから、心配してたのか?」 自分で聞けばいいだろうと言いたくなるのを吞み込んで、私は、そうなのだろうと返した。 「初恋の相手じゃあるまいし、馬鹿じゃないの……まぁ、こんな時くらいは頼ってって言っておいて。遠くの知人より、近くの他人でしょ」  だから、自分で言ってくれればいいものを。  なのに伝えられなかった。よって父の入院期間中は、どっと疲れた。両親の間を行き来する私は、言ってしまえば伝書鳩だ。その役目の他にも、二人が余計な心配をしないよう、必要のない嘘もついてきた。 「旦那さんは大丈夫なのか? 早く帰ってあげないと」 「いいよ。今日は帰りが遅くて、家にいないから」 本当は、旦那は休みで家にいる。 「お父さんのこと、もう知らないって言って、放ったらかしていいんだから。あんたも、仕事があるんでしょう?」 「もう全部済ませてきたから、心配ないよ」 本当は、その傍で職場からのメールが何通もきていた。
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